キャズム超えへ! 掃除ロボット「ルンバ」の挑戦それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2010年07月14日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2010年7月9日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


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 6月30日付日経の家電&eビジネス欄に「掃除ロボ『ルンバ』 日本での販売まだ伸びる」との記事が掲載された。メーカーである家庭用ロボット開発の米アイロボット社、コリン・アングルCEO(最高経営責任者)のインタビュー記事である。世界中で激売れしているアップルのiPadを掲げるスティーブ・ジョブズの記事の隣というのが、また何とも暗示的だ。

 同記事によると、日本での販売量は毎年2ケタ増のペースといい、さらに2009年11月13日付日経MJの記事によると、2009年3月期は前期比1.5倍の3万2155台、そして、2010年3月期売り上げが前期比2倍というから、まさに右肩上がりの売れ行きとなっている。約5万〜8万円という掃除機としては高級な値段を考えても、その伸びはすばらしい。

 インタビュー記事によると、「売れる理由」は同社がモデルチェンジごとに改良を重ねているほか、その改良点が日本からの意見を取り入れたものであることも指摘している。その「お客さまの声」の収集は、同社の日本における総代理店で宣伝から顧客サポートまでも担当しているセールス・オンデマンド社の功績が大きいようだ。海外製のハイテク製品は故障対応や修理などの不安が付きまとう。その窓口を一元的に運営し、フィードバック情報をアイロボット社に提供して、より日本市場に適合した製品に仕上げているのだ。

 インタビュー記事でコリン氏は、日本市場での拡大の理由の1つを、「ほかの国ではロボットに抵抗を示す消費者も多いが、日本はアニメなどで慣れ親しんでいるためか、ロボットが生活に入り込むことを受け入れている」と指摘している。

 しかし、それでは一部のメカオタク層のおもちゃで終わってしまう。例えば、ソニーの犬型愛玩ロボット「AIBO(アイボ)」。AIBOは1999年6月1日、価格25万円のERS-110型が発売され、あっという間に完売した。購入者の多くは画期的な動作をするロボットとしての魅力にひかれたメカマニアであったという。

 ルンバは誰が、どんな理由で買っているのだろうか。セールス・オンデマンド社に聞いてみた。

 「“ロボット”という言い方を封印したところからヒットが加速し始めたんですよ」と同社の役員は意外な話を明かしてくれた。

 「掃除をしてくれるロボット」という今まで見たことも聞いたこともない概念を、人はにわかには受入れられない。また、ロボットは日本人にとって古くは「鉄腕アトム」であり、「ドラえもん」であり、「ガンダム」だ。まだ、世に出ていないもの。空想の産物。そして、それらが形になっているとしたら、それは「おもちゃ」だ。確かに上記「アイボ」はおもちゃだ。実用化されている二足歩行ロボットのホンダ「アシモ」もあるが、とても一般家庭に導入できる価格ではない。

 ゆえに、一般家庭では「使える道具」というポジショニングにリセットする必要があった。ルンバは洗濯機や食器洗い機などの「家電の仲間」なのだと。掃除機も食洗機も全自動。掃除も全自動でやってくれる家電があってもいいじゃないか。そんなアプローチだ。

 「おもちゃ」ではなく、「使える家電」であるという認識さえ形成できれば、結果としてそれがロボットの機能を搭載して家の中を動き回っても、日本人的には嫌悪するような感情を持つものではない。それが、アイロボット社CEOの解説の真意のようだ。

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