あと数年で市場が消滅? 市販カーナビを猛追する携帯ナビ神尾寿の時事日想・特別編(1/3 ページ)

» 2010年08月04日 12時03分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)

ALT 『TOYOTAビジネス革命 ユーザー・ディーラー・メーカーをつなぐ究極のかんばん方式』

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/ 交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(COTY、2009年まで)、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを務める。

トヨタ自動車の豊田章男社長ほか、キーパーソンへのインタビューを中心にまとめた『TOYOTAビジネス革命 ユーザー・ディーラー・メーカーをつなぐ究極のかんばん方式』、本連載(時事日想)とITmedia プロフェッショナルモバイルに執筆した記事をまとめた『次世代モバイルストラテジー』(いずれもソフトバンククリエイティブ)も好評発売中。


 夏の帰省・行楽シーズンを前に、需要が高くなるのがカーナビゲーションシステム(カーナビ)である。特に昨年からは、ETC利用で休日の高速道路料金が上限1000円になる休日特別割引が期間限定で実施されており、さらに今年6月からは一部路線で高速道路無料化社会実験が始まっている。見知らぬ土地でのドライブや渋滞情報取得のためにカーナビが活躍する場面は多いはずだ。

 日本はカーナビゲーションの先進国である。本田技研工業が世界初のカーナビゲーションを開発して以降、GPS対応やテレマティクス(※)対応などで世界をリードしてきた。そして現在、カーナビ市場で見逃せないトレンドになっているのが、GPS携帯電話向けに歩行者ナビゲーションサービスを提供してきた企業の進出だ。いわゆる「ケータイナビ」を作ってきたナビタイム・ジャパンやユビークリンクなど、ナビゲーションサービス企業が、サーバー連携・クラウド型の柔軟さやコストパフォーマンスの高さを武器に、カーナビ市場に殴り込みをかけている。

※テレマティクス……通信を用いたカーナビ向け情報サービス

 今後のカーナビはどこに向かうのか。今回の時事日想では、それを考えてみたい。

クラウド+専用端末で攻勢。CAR NAVITIMEの衝撃

CAR NAVITIMEの製品発表会。左がナビタイムジャパン社長の大西啓介氏、右がKDDI グループ戦略統括本部長の高橋 誠氏

 「カーナビも、ついにクラウドの時代がやってきた」

 5月24日、ナビタイムジャパンの小型カーナビ端末「CAR NAVITIME」の発表記者会見において、KDDI グループ戦略統括本部長の高橋 誠氏はそう語った。

 CAR NAVITIMEは、ナビタイムが「Wireless Navigation Device」(WND)と呼ぶ新ジャンルの商品(参照記事)。形状はPND (Portable Navigation Device, Personal Navigation Device)と呼ばれる小型カーナビに似ているが、モバイル通信機能を内蔵し、常にサーバー連携をするのが特徴だ。通信経由で、一般的なカーナビよりも広範囲で詳しい渋滞情報を取得し、リアルタイムの駐車場満車空車情報やガソリンスタンドの最新価格情報、「ぐるなび」「FooMoo」などインターネット上の飲食店情報と連携した口コミ情報の検索などに対応している。また、ETCの料金改定にいち早く対応して、それに基づいた割安なルートの検索や、年3回の地図自動更新機能なども用意されている。CAR NAVITIMEの実売価格は4万3800円(別途通信料が月額525円)であるが、カーナビ機能の充実ぶりは、数十万円で販売されている市販カーナビ以上である。

CAR NAVITIME

 なぜ、これほどまでにコストパフォーマンスの高い製品が作れたのか。それはCAR NAVITIMEが、単体のカーナビ商品ではなく、ナビタイムの"ナビゲーションサービス"の端末として位置づけられているところに理由がある。

 ナビタイムはau向けの「EZナビウォーク」を皮切りに、ドコモやソフトバンクモバイルなど主要キャリアの携帯電話向けに「NAVITIME」サービスを展開。PCサイトとも連動して、サーバー提供型のカーナビゲーションサービスをビジネス化している。CAR NAVITIMEでは地図やルート検索の基本部分は本体内に搭載しているが、情報量やリアルタイム性が求められる付加機能はすべてNAVITIMEサーバーが提供。それらは有料会員数400万人以上の携帯電話向けサービスと共有されているため、低コストで迅速かつ高度な情報提供が可能になっている。さらに、これまで通信型カーナビ普及のボトルネックだった通信料金の部分もKDDIと戦略的に提携し、独自の利用料金体系を作る「Link→au」(参照記事)のスキームを使うことで、月額525円で使い放題という安さを実現した。

地図上に表示されるアイコンは最大32種類。アイコンにタッチすると詳細情報を確認できる。これらの情報は携帯電話向けのサービスを共用している

 このようにCAR NAVITIMEでは、すでに携帯電話向けに使っているシステムを共用することでコストを抑え、カーナビ市場に「IT活用による価格破壊」を仕掛けている。また今後は、"通信利用・サーバー連携型"という特徴を生かして広告やホテル予約サービスの提供も予定しており、ここから広告料や様々な仲介手数料も得る計画だ。ナビタイムジャパン社長の大西啓介氏は「WNDにはPNDよりも大きなマーケットが存在する」と見ている。今後はクルマ向けのCAR NAVITIMEを第一弾とし、自転車・バイク向けや商用車向けのナビゲーション端末も開発し、カーナビ市場を"モノ作り"ではなく"サービス提供"のビジネスで席巻する計画だ。

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