船の設計には非常に細かい注意が払われた。普段見慣れている小さなファスナーをそのままの比率で大きくしたのではリアルに見えない。高台に登って海を見下ろしたときに、ファスナーが海を開いているように見えるようにするため、ほんの少しのデフォルメを加えているのだ。例えば、把手の部分は、長さ11メートルあるのだがわずか5センチだけ後方に向けてテーパーをつけた。
7月上旬に沼津のマリーナで行なわれた最終チェック。この日初めて船は海に浮かぶ、その運航状態を見て、実際の運航が可能かどうかの審査が下りるのだ。
シルバーの塗装も完了し、ファスナーらしさが増した。最終仕上げの際には、鈴木氏も自らやすりを持って職人たちと一緒に船を磨いた。つるつるのボディと前に突き出した把手部分。ドデカイおもちゃがマリーナに鎮座している姿に、見る人たちは笑いがこらえきれない様子だった。
5.3トンの重さの船をクレーンで持ち上げて、いざ着水。中に人が入り、重りを乗せ、傾きなどの検査を行う。発進すると、岸にいた職人たちから笑みがこぼれた。「本当に走った」「海に浮かんでもおもちゃみたいだね」「ちゃんと開いてるね」と。いい大人が「面白いね」と子どものように笑い合ってる姿を見て、作品が持つ力を感じさせられた。この後、船は陸路で高松港へと運ばれ、瀬戸内海へと浮かべられることに。
構想8年。誰も実現できるとは思っていなかった「ファスナーの船」が、いよいよ瀬戸内海に浮かべられた。全長11.37メートル、幅4.65メートル、重さ5.3トンの世界一巨大なファスナーではないだろうか。
そして、開くのは「海」。自分が海を開いているのだ、という新しい感覚で船に乗り、開いた水面から何が登場するのだろうか、子どものように頭をやわらかくして想像の世界を楽しみたい。
芸術祭期間中、高松港周辺を周遊。中学生以上1000円、小学生500円(天候と海の状況により不定期運行も)。1便 8:40、2便 9:40、3便 10:50、4便 13:40、5便 14:50、6便 15:40。1回約15分、定員9名。
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