検察よ、少し“傲慢”ではないか相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2010年09月16日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 「厚生労働省元局長と大阪地検特捜部」「小沢一郎前民主党幹事長と東京地検特捜部」――。

 このところ地検特捜部を巡るニュースがかしましい。いずれも地検特捜部が追い込まれる異例の展開となり、“特捜部神話”が崩壊したとみる読者も少なくないはずだ。双方の案件の詳細は他稿に譲るとして、今回の時事日想では筆者が知る検察の姿、そしてそれを巡るマスコミのあり方に触れてみたい。

出禁の恐怖

 「検査実務を妨害する報道があったため、御社は今後1カ月、定例会見と懇談への出入りを禁止します」――。

 今から10年以上前のこと。当時発足したばかりの金融監督庁(現金融庁)の広報担当者から、筆者の古巣、通信社で金融の諸問題を担当していた取材チームに冒頭のような通達が出された。同庁は旧大蔵省の金融行政部門が分離・独立して設立されたばかり。組織トップには当時の検察から大物OBが就任した。

 筆者を含む取材チームは通達を受け、あんぐりと口を開けてしまった。経済部記者が考える出入り禁止処分とは、経済統計のエンバーゴ(報道解禁時間)破りや、オフレコ破りなどが大半。換言すれば、取材する側とされる側の取り決め・約束を意図的にほごにしたり、隠しマイクで取材したデータを紙面に反映させるなど、明確な形でモラルを逸脱した際に適用されるものが出禁処分だったのだ。

 しかし、当時の金融監督庁は違った。筆者を含めた取材チームはこのとき、金融界の不良債権処理の詳細を追っており、同庁が厳しい姿勢で検査に臨んでいることを詳細に報じた。当然、同庁に対する批判的な要素も多分に含んでいた。取材チームは同庁お抱えのライターではなく、報道記者なのだから当たり前だ。

 しかし、同庁はバッサリと処分を課した。同庁のトップ、すなわち検察OBの強い意向だった。つまり「都合の悪いことは報じてくれるな」という検察スタイルのメディア対応をそのまま使ったわけだ。

 だが、当時の金融取材チームは屈しなかった。取材対象は同庁関係者だけではなく、広く民間金融機関、あるいは金融を専門に扱う弁護士など多岐に渡ったからだ。

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