2000年代のゲーム産業のトレンドをひと言でいえば、カジュアル化の歴史である。カジュアル化とは、それまでゲームをプレイしていなかった層に向けて、製品やサービスの内容を変えていくことである。
ゲームプレイには「学習」が必要であり、初心者が複雑なゲームをいきなり楽しむことはできない。団塊ジュニアがいわゆるビデオゲーム世代であるが、彼らはファミコンのプレイから始まり、ゲーム産業の発展と足並みを揃えて「学習」してきた。ゲーム会社は、彼らのニーズに長年向き合って開発を繰り返した末、ゲームは年々複雑なものとなり、若年層の初心者に対して大きなハードルを作ってしまった。1990年代末にビデオゲームの国内出荷高が減少に転ずると、新しい客層を開拓しようとカジュアル化へかじが切られた。
代表例が、初心者でも操作できる新型コンソール機である。任天堂のWiiは、どの家庭にもあるリモコン型のコントローラによって、初心者でも直感的にプレイできることが売りとなった。ソフトのカジュアル化も進み、『脳を鍛える大人のDSトレーニング』に代表されるTouch Generationsシリーズのように、初心者に優しいラインアップが実現した。こうして2006年からビデオゲーム市場は再び盛り返した。
このころ、オンラインゲームという新しいゲーム産業が誕生した。日本では2002年ころから普及期に入ったものの、ビデオゲームや携帯コンテンツなど競合が多く、早々に市場成長が鈍化した。そこで、オンラインゲーム業界においても、カジュアル化によるユーザー層拡大の試みがなされた。
その1つが、定額制から基本無料アイテム課金への料金改革である。定額制ではいくらプレイしても月額1500円というように、コアユーザーに対しては割安感があったが、気軽に利用したいカジュアルユーザーにとっては固定料金がハードルとなった。基本無料でプレイできれば、ユーザーのすそ野を広げることができると同時に、アイテム販売によって一部のユーザーから高いARPU(客単価)を獲得できる。この新しい収益モデルは、PCオンラインゲームでは2006年に普及し、後に携帯ゲームやソーシャルゲームに受け継がれた。
現在のソーシャルゲームは、この数年のカジュアル化の先端に位置している。ゲームを目的としないSNSユーザーに対して、友達とのコミュニケーションのためのミニゲームを提供し、結果的にゲームに課金させる仕組みは、カジュアルユーザー向けの新しいビジネスモデルである。
カジュアルユーザーをひきつけるには、「気が向いた瞬間に即座にゲームを始められる」状況を作ることが必要である。これまでは、ビデオゲームならばパッケージゲームの購入、PCオンラインゲームでは大容量のクライアントソフトのダウンロードという、プレイ前の準備が必要であった。この準備を不要にし、インターネットにアクセスしさえすればゲームをプレイできる技術的仕組み(SaaS)が、ソーシャルゲームを支える。必要なソフトやデータはすべてゲームサーバが用意してくれるので、ユーザーはSNSサイトや携帯Webサイトに接続するだけの最低限の設備を持っていればよい。
SNSから出発したソーシャルゲームでは、ゲーム会社からWebサービス会社や携帯コンテンツ会社へ主導権が移り、新しい市場と見ることもできる。一方、長期的なトレンドから見ると、ソーシャルゲームは突如として現れたわけではなく、カジュアル化の歴史の上に存在することが分かる。
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