真っ赤なレールにぶら下がってやってきたゴンドラに乗る。駅構内と駅間では使うケーブルが違うようだ。構内を進み、空に出るところで、両脇下から空中用のケーブルが出てくる。ゴンドラのアームがケーブルを掴むと、いきなり速度が上がって空中に放り出されるような感覚になる。ほんとうに宇宙船のようだ。大きなゴンドラは定員22名。この時間は空いているようで、私とお年寄りの4人組が乗っている。「暑いなあ」の声。このゴンドラはガラス張りで、空中では直射日光を浴びっぱなし。天井近くの小さなスキマから、窓ガラス伝いに風が降りてくる。ここに場所を取らないとキツイ。
地表がどんどん遠ざかり、573mも上がって天神平駅へ。ここには大きな観光施設があって、レストランや土産物屋もある。駅弁のおかげで空腹感はないから、さらにその先を目指した。ここからはペアリフトに乗って、さらに約200mほど高い天神峠に行ける。所要時間は7分。むき出しのリフトは斜面にあって、足下の数センチ下は地面。これなら落ちても安心だな、と思いつつ、高原植物の花を愛でながら上っていく。猛暑のせいか時期が遅いのか、ニッコウキスゲと名前が分からない紫の花が少々ある程度だった。
リフトの頂上、天神峠駅の屋上が展望台になっていた。ここから360度の視界を楽しめる。谷川岳山頂は霞んでいた。こちらは穏やかな風だけど、あちらは強く風が吹いている様子。山頂のトマの耳とオキの耳がもうすぐ見えそうで、また霞に隠れてしまう。ここから谷川岳山頂はたった3km。町歩きの感覚だと2時間で往復できそうな距離だ。尾根伝いの道もよく見える。しかし、そんなに甘くはないだろうとも思う。トマの耳は標高1977m。ここから400m以上も高く、高低差は東京タワーより大きい。
こちら側はまだなだらかだが、山頂の向こう側は険しさで知られる一ノ倉沢。ザイルに吊られたまま白骨化した遭難者が見つかったり、宙づりの遺体を降ろすために1000発以上の弾を撃ってザイルを切ったという逸話もあるという。途中まで歩き始めて、そんな話を思い出して踏みとどまった。私はしょせん、スニーカーを履いて電車に乗って遊んでいるだけだ。上りは安心していたリフトも、下りは足元と地面が遠く、生身で空中に放り出された感覚でスリルがあった。これくらいで怯えているようじゃ山には行けない。
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