鈴木 時間と空間という問題もあります。星飛雄馬がジャイアンツのピッチャーになって、巨人の星を目指すアニメ『巨人の星』はご存じですよね。
当時の日本は貧しいので、4畳半の部屋で飛雄馬はお父さんとお姉さんの3人でご飯を食べているんです。そこで飛雄馬の言ったことにお父さんが気に入らなくて、「何だお前は」と怒って、ちゃぶ台をバーンとひっくり返すんですね。すると、バーンとやった瞬間に4畳半の部屋が45畳になるんです(笑)。
それでくんずほぐれず親と子が喧嘩して、それを遠巻きにお姉さんが見ているのですが、ひとしきりやって喧嘩が終わると、いつの間にか部屋が4畳半に戻るんです(会場笑)。みなさん笑ってらっしゃいますけど、普段読んでいる漫画のほとんどがそうやってできていることをご存じですか? これは外国ではありえないんです。4畳半の部屋は4畳半の部屋でしかなくて、そうすると部屋の狭さを強調するんです。
もう1つ、「この1球に命をかける」という回があって、ボールを1球投げるのに30分かかったんですね。そうすると、30分の間にカットバックでいろんなことを思い出すわけですよ。やっと1球投げ終わった時には「次回に続く」となるのですが、これにはいろんな事情があったと思うんです。制作側が切羽詰まってきていて、「古い映像を使っていろんなことを思い出す回にすればこの回はもつ」と誰かが考えたんですよ。
でも、これは日本の大きな特徴なんです。日本の大きな特徴は実際の時間と空間をゆがめるということなんです。これに一番影響を受けたのが『マトリックス』ですよね。
日本人、特に宮さんなんかは面白い絵を描くんですよね。1枚の絵で、真ん中は普通に描いてあるのに、周りは広角で描いてあるというような。これも外国の人にとってはありえない。
それだけ違う考え方をしているのに、お互いを理解するというのは大変ですよね。さっきのフランスの新聞が「豊かな想像力、ありえないイマジネーション」と書いたのは、結局は「自分たちには理解不能だ」と言って放り出しているわけなんですよ。
西村 でも、分からなくても「いいな」という感覚があったから、そういう書き方をしたのではないでしょうか?
鈴木 「いいな」というより、驚いているんですよ。ストーリーは普通にちゃんとやってあれば、ある一定の評価は受けるのですが、それ(ルールを破っていること)によってある種、煙に巻かれていることは確かですね。
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