時間と空間をゆがめるのが特徴――ジブリ・鈴木敏夫氏が見る日本アニメの現在と未来(後編)(3/5 ページ)

» 2010年11月26日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

フランスで評判になった『ハウルの動く城』

鈴木 思い出していただきたいのは、『ハウルの動く城』の城をどうやってデザインしたかです。宮崎駿がその絵を描いた時のことはいまだに忘れもしません。「どういう城にしよう」とずっと悩んでいたんです。普通は頭の中に西洋の城の形が浮かびますよね。でも、やっていくうちに、「それ、つまんないな」ということになって、「どうしよう、どうしよう」となったわけです。

 そんなある日、彼が僕の目の前で何となく大砲を描いたんです。大砲の筒を描いたら、そのもとはどうなっているかということで、横に家を描いているんですね。そして、家を描いているうちにそこからアンテナみたいなものが出てきて、大砲をもう1つ描いて……といろいろやっているうちにあのデザインができてきたんです。

 ただ最後に「動く城だからさあ、鈴木さん。足だよね」と言って、悩み始めたんですよ。それまでひゅるひゅると描いていたのに「どうしようかな」と言って、珍しくほかの紙を引っ張り出して「こうかなあ」と描いた絵が足軽の足だったんです。ただ、その足をくっつけて動かすと、「違うなあ」と言って、その後ずっと黙っていたんです。そして突然、宮崎が「やっぱりにわとりかな」と言ったんです。あれ、にわとりの足なんですよね。

 それで全部描けた時、彼が真剣な顔になったんです。「鈴木さん、冷静に判断して」と。「何ですか?」と聞いたら、「これが城に見えますか?」と。これがすごいんですよね、あの人は。目の前で全部描いた後に「どう見える?」でしょ。正直に言うと、城になんか見えるわけがないんですよ。だけど僕は、「できあがったものはとにかく面白いんだから、これでいいんじゃないですか」と言ったんです。

 『ハウルの動く城』はフランスで大評判になったのですが、何が評判になったかというとあのお城のデザインなんです。さっきから言っているように、ハウルの動く城を上から見てもわけ分かんない、正面から見てもシンメトリー(対称的)になっていないし、いろんなものが飛び出たりしている。これは外国の人には絶対に描けないし、理解不能なんです。

 フランスの有名な新聞に『ハウルの動く城』の映画評が書かれたのですが、「豊かな想像力、ありえないイマジネーション。現代のピカソ」と書いてあった。向こうではシンメトリーに作って、上から見たらある形になっていないといけない。絵でも一点透視図法などのルールがあります。それをすべて破ってきたのが宮崎駿の歴史なんです。

 例えば『魔女の宅急便』でキキが空を飛ぶシーンを描いた時には、1枚の絵の中に視点が2つあったんです。1つの視点は地平線の向こうを見ていて、もう1つの視点は真上から手前の絵(キキ)を見ている。それを1枚の絵として描くんです。これは外国の人にはありえないのですが、(宮崎氏は)平気なんですよ。1枚の絵の中に視点を何個も作るなんて、なかなかできない。そうすると、外国の人は「何でこんな絵が描けるのか」となる。

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