1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。
著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」、Twitterアカウント:@katigumi
「赤いひもは見たくない……」
弁護士の和泉貴士さん(35歳)は、身内の“自殺”についてこう切り出した。2006年の9月、部屋からドスン、ドスンといった音が聞こえてきた。和泉さんがそこに行くと、母親が酔っていた。そして「もう、死にたい」と漏らした。
それよりも少し前に、祖母が亡くなった。そのころから、和泉さんは母親の様子が気になっていた。「おばあさん(祖母)の霊が見える」などと言い始めたという。祖母は長い間、病に苦しんでいた。母親は、介護に疲れ切っていた。この時期から、部屋で赤いひもを見かけるようになった。それは、祖母が生前、和服を着る際に腰に巻いていたものだった。
「死にたい」と言う母親に、和泉さんは「バカなことを言うなよ」とたしなめた。翌朝の9時ごろ、父親が大きな声を出した。2階にいた和泉さんが急いで降りていく。母親は、祖母の仏壇の上にある梁(はり)に赤いひもをかけて首をつっていた。
和泉さんは、急いで救急車を呼んだ。「人工呼吸をしたり、心臓マッサージを繰り返した。だが、口を通じて空気を押し込もうとしても、入らない。すでに体は硬くなっていた。肌は青黒く変色し、おなかはガスのためか、膨れ上がっている。口の中はたばこを吸っていたこともあり、真っ黒になっていた」――。
母親の命は、戻らなかった。その後、警察が現れた。和泉さんは、かすかに答えた。「自分が昨晩、もう少し話をしていればこうはならなかった」。衝撃は大きく、しばらくの間、悲しいといった気分になれなかった。今も、赤いひもを見たりすると、思い起こすという。「無駄と知りながら蘇生をしていく、あのときのことが忘れられない」
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