「オレは変わった」という、“お山の大将”にダマされてはいけない吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年01月14日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

「10億円の壁」にぶつかるとき

 ここからは、私が感じ取った考えである。社長は病気になるまでは創業経営者に見られがちな、少々、強引ともいえる手法で会社を発展させていったのではないだろうか。きれいごとを抜きにいえば、創業経営者にはそのくらいの商魂が必要である。そうでなければ、新参者をとかく異端扱いし、排除していく日本の社会では生き残れないだろう。

 だが、その路線ではある時期からうまくいかなくなる。それは、社員が同じ価値観のもとで闘う「組織戦」に持ち込むことができないからだ。つまり、各々がバラバラになったままで仕事を進めていく「個人戦」しかできないのだ。

 ベンチャー企業を取材すると、その多くが「個人戦」をしている。株式会社とは名ばかりで、実際は個人事業主の集まりでしかない。それでは、ムリ・ムダ・ムラが多く、売り上げは6〜9億円で伸び悩む。

 このように「10億円の壁」にぶつかるとき、それを克服する大きなポイントが「個人戦」から「組織戦」へのシフトである。しかし、それは簡単にはできない。そして、大多数のベンチャー企業が名もなき中小企業でひっそりと終わっていく。その理由は、創業経営者の心にある。

「俺は変わった」という言葉に騙されない

 これは私見ではあるが、いちばん多い創業経営者のパターンは、自分ひとりで会社が成り立っていると思い込んでいることだ。取引先や下請けまでもが思い描いたとおりに動くと考えている。「一部のベンチャー企業の創業経営者とは、会話ができない」といったことは、労働基準監督署や税務署の職員からも時折、オフレコ(記事にしない条件)で聞く。

 だから、いつまでも「組織戦」をすることができない。いかなるときも、自分を中心とした体制にしがみつく。異議を唱える者は次々と排除し、辞めさせる。大企業の経営者のように、反主流派の役員やうるさい株主、労働組合などとのしがらみの中で生きていくことができない。そもそも、それができないから1人で事業を始めたのである。要は、“お山の大将”なのだ。

 その意味で、川畑社長のような創業経営者は、極めて優れた感覚の持ち主といえる。これほどの人格を兼ね備えた経営者ならば、社員も取引先も下請けもついていくのだろう。その結果、売り上げが伸びていくのだと思う。このような経営者が増えれば、地域経済も息を吹き返すだろう。

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