大企業に長く勤めた後、起業して経営者となったライフネット生命の出口治明社長が自著『直球勝負の会社―戦後初の独立系の生命保険会社はこうして生まれた』の中で「新しい保険会社を起業する機会を得られたことは宝くじに当たる以上の幸運」であり、「誰にでも与えられるわけではないすばらしい機会を得たのだから、必死で頑張らないといけないと思う」という趣旨のことを書かれていました。
それまでちきりんには、「天下り(官の場合)や子会社への転出(民の場合)をする人は、何度も高額の退職金をもらい、名誉職的な仕事で何千万円もの年収を受け取るなど“ずるい”」という印象がありました。しかし、出口社長の著書を読んで、違う側面について考えるようになりました。
天下りや子会社の経営者に降りていく人たちは、仮にも一度は大組織、大企業でトップを目指した人たちです。「彼らが本当に欲しいと思っているものが、“処遇だけ”の仕事であるはずがない」と思えたのです。全員とは言わないですが、「処遇なんてどうでもいいから、力を発揮できる機会が欲しい」と思っている人も多いのではないでしょうか。
しかもこういった人たちはたいてい貯金や手厚い企業年金を保有しており、「心から賛同できる機会であれば、給料が低くても問題はない」という人も多そうです。
でも、日本にはこういう立場の人向けの大きな転職市場はまだありません。だから仕方なくアレンジされた「処遇だけの仕事」に就いている人も多いのかもと思えたのです。
日本の転職斡旋業界は若手の転職支援には熱心ですが、こういう「経営職レース参加経験人材層」にももっと注目すべきではないでしょうか。
たいていこういう人たちはものすごく豊かな経験をもっています。複数の海外経験があったり、合併や買収後の組織統合を経験していたり、法律や規制や上場や免許関係に精通していたり、銀行と何度もギリギリの融資交渉をしていたり。
そういう人を「処遇だけ」のポジションに押し込めるなんて、「人材しか資源がない」と豪語する日本としては、かなりもったいないことではないでしょうか。
そもそもこの層に限らず、「日本が、有能な人材に機会を与えずに放置する」というのは、「サウジアラビアが原油を砂漠に垂れ流す」のと同じです。 「国の唯一の資産を無駄にしてどーするの?」と思います。
雇用の流動化というと、給料をもらいすぎている中高年を解雇することが目的だと考える人もいるようですが、そうではなく、雇用の流動化こそが「社会における人材の最適配分を実現する仕組み」なのだという認識も必要なのではないでしょうか。
そんじゃーね。
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」
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