学生諸君 こんな中小企業には注意せよ吉田典史の時事日想(2/2 ページ)

» 2011年02月25日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]
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「なんとなく株式会社」と「そこそこの会社」

 新卒の学生にとって問題は、(3)と(4)ではないか。私は、これらの会社を「なんとなく株式会社」と呼んでいる。役員会の下に経理や総務、営業などがあり、それぞれの役割や責任体制が整っている。そして体制ができあがり、なんとなく会社っぽく見えるのだ。だから、新卒は「ここがいい!」と思い込み、エントリーしてしまうことがある。

 しかし、会社とは名ばかりという面があることも否定できない。経営者以下、社員の意識がついていかないのだ。例えば、社長は管理職を信用していない。どこか疑心が強い人が目立つ。だから、「こうしろ、ああしろ」と介入する。管理職はそれに不満を感じたり、おびえて部下にも厳しくは言わない。中堅企業(社員数300人〜800人ほど)以上の管理職に比べて課長が自信を持っていないのが、このクラスの特徴である。仕切らないと気がすまない社長が、その問題の諸悪の根源と私には思える。

 このような体制では、一定のスピードで仕事を消化していくことができない。もちろん、1つの部署での社員間の情報や意識、目標の共有はなかなかできない。また、社員の職務遂行能力も大企業の同世代と比べると、2〜3ランクは低い。20代前半でありながら1人ですべてを判断し、仕事をしている人すらいる。その質は決して高くはない。私にはこれは「自主性」という言葉を上司も部下もはき違えているように見える。しかし、そのような問題を提起する人は少ない。

 ただし、(3)のように創業10年以内であれば救いようがある。上場を目指すベンチャー企業は、このクラスに入ることが多い。ほとんどのベンチャー企業は売り上げが伸び悩み、名もなき中小企業で終わっていく。だが、一部に社員数150〜300人にまで拡大していく企業がある。新卒の人が行くならばこのような会社がいいのかもしれない。例えば、4〜5年前に私がよく出入りしたライトアップ(本社:渋谷)やテレウェイブ(本社:新宿)、アイレップ(本社:渋谷)などは当時、業績の面でキレイな上昇気流を描いていた。いずれもIT系ベンチャーで、社内には勢いがあった。

 私は、(5)と(6)を「勘違いしている会社」と呼んでいる。その場合の勘違いとは、一言でいえば、社員たちが自社を「そこそこ」と思い込んでいるフシがある。さらに、自分のことも「そこそこ」と感じ取っているように思えなくもない。発言の内容や行動から、私はそのように感じる。だが、社員数150〜300人で満足しているようではこの先、明るくはないはずだ。

 その理由はいくつかあるが、1つは社内で特に上司からネチネチと指導を受ける機会が少ないことがある。大体、30代前半までくらいにその社員の職務遂行能力は決まる。そのためには、その年ごろまでに上司や先輩らと1つ1つの仕事につき、スタートから終わりまで何度も話し合い、フィードバックをたくさん受けることだ。その過程で自分を省みて、効率よく成長させていくのがいい。

 ところが、このレベルの会社は各々が個人事業主的な考えを持っている。よく観察していると仕事の面で深い話し合いになっていない。特に、上司と部下が互いにけん制し合う傾向がある。それも無理はない。依然として人の出入りが激しく、仕事をしていくうえでの型が共有できていないのだ。型が共有できていないと、上司がネチネチと指導をしても部下はイジメを受けていると思いかねない。

創業期のハングリーさが必要

 結局、上司からネチネチと言われたりする中でしか、人は育たない。また自分を本当に知ることもできない。それがないがゆえに、「そこそこ」と思い込む人が増えてくるのだろう。

 この弱さを経営者や役員らの強力な営業力や技術力などでしのいでいる、というのが実態なのである。しかし、社員の多くはその危機意識を共有していない。ここに、このクラスの会社の悲劇がある。

 だが、(5)のグル―プの会社はここを抜け出す可能性が多少ある。例えば、前述のライトアップやアイレップは、もう「中小企業」とは言えないレベルになりつつある。大切なことは、創業期のハングリーなものを社員らが共有できるかどうかだろう。それがうまくいけば、「中堅企業」と呼ぶのにふさわしくなる。新卒の人が中小企業に行くならば、このような会社がいいように私は思う。

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