社長・岡田斗司夫、社員から給料をもらいますマネーを追う(2/3 ページ)

» 2011年03月25日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

岡田斗司夫さんは“タダの人”になった

 コンテンツの世界ではヒットしているものほど「0円」またはそれに近い価格で手に入るようになっている。例えばジブリ作品であれば地上波で見ることができるが、あまりヒットしなかった映画はレンタル店でDVDを借りなければいけない。さらにマニアックな作品であればDVDを購入しなければいけない。大ヒットした村上春樹さんの『1Q84』(新潮社)であれば図書館で借りることもできるし、古本屋では定価よりも安く買うことができる。しかし図書館に置いていない本であれば書店で購入しなければいけないし、またそうした本の価格は高いことが多い。

 コンテンツを提供した側からすると「作品がヒットするのはうれしいが、できれば多くの人に購入してほしい」というのが本音だ。そこに“ねじれ”が生じている、と岡田さんは見ている。彼はそれを逆転させ、自分が発信する情報をすべて無料にすることにした。

 本の印税、原稿料、大学の講義料、テレビの出演料などは一切もらわない。いわば“タダの人”になったのだ。原稿料や講義料などをもらわずに、どのようにやりくりしているのだろうか。

 岡田さんは会社を立ち上げ、現在は「社長」という立場。本来、会社というのは「社長(会社側)が、社員に給料を支払う」というものだ。しかし彼の会社は「社員が、社長に年12万円支払わなければいけない」。現在の社員数は224人(3月9日時点)なので、岡田さんは年間2688万円手にすることになる。社員がお金を払って、働く権利を買う「会社」――このシステムを「FREEex(フリックス)」と呼んでいる。

生活が不安定になるのでは

 社長に給料を支払うことで、社員はどのようなメリットがあるのだろうか。「例えば本の作り方を学ぶことができる。ライターの養成講座といえば、文章の書き方は教えてもらえるが、実際に本を書いてデビューすることは難しい。しかし僕の会社で働くと、デビューすることができる。なぜデビューできるかというと、出版社から注文があるから。僕は原稿料、印税をもらわないので、出版社も仕事を依頼しやすいのだろう」(岡田さん)という。

 ただこうした岡田さんの行動に、「生活が不安定になるのでは?」といった声もある。この質問に対し、彼はきっぱりと否定する。「出版社、取次、書店という今の脆弱なシステムに頼る方が不安定だ。それよりも本が1万部売れたら、5%(500人)のファンがいる。そして500人のうち5%(25人)が『岡田と一緒に働いてみようかな』と思ってくれれば、僕はタダで働き続けることができる」。

 ちなみに著書『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)はミリオンセラーとなり、彼の懐には2700万円が転がり込んできた。現在、社員たちから支払われる給料1年分と、ほぼ同じ金額だ。

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