インタビュー
» 2011年04月01日 08時00分 公開

国際会議を支える同時通訳者、その知られざる世界――浜瀬優重さんあなたの隣のプロフェッショナル(3/5 ページ)

[嶋田淑之,Business Media 誠]

同時通訳者の仕事、その受発注の仕組み

 浜瀬さんは、これまで情報通信や半導体などの技術分野、原子力や太陽光発電などのエネルギー分野、特許などの知財分野を得意領域として、国際会議・シンポジウム・セミナーなど各種カンファレンスで実績を積んできた。こうした浜瀬さんを始めとする同時通訳者の方々は、それぞれどのような組織に属し(あるいは属さず)、どのようにして仕事を得ているのだろうか?

 「大多数の人がエージェントに登録しています。私も2009年に起業するまではずっとそうでした。一部のエージェントで専属制度を導入していますが、ほとんどは複数登録が可能です。仕事の流れは、クライアントからエージェントに発注し、エージェントはその仕事内容に適した同時通訳者に仕事を回すというスタイルです。

 発注内容に関しては、高いスキルが必要な国際会議と、駆け出しの登竜門としての社内会議という風に二極化が進んでいます」

 同時通訳者は外交折衝を支えるなど高度な専門職であり、当然、社会的地位も高く、ギャランティーもそれに見合ったレベルではないかと思うのだが、実際はどうなのだろうか?

 「私たちはあくまでも黒子であって、『うまくいって当たり前。うまく行かなかったら、以後、仕事は来ない』という厳しい世界です。そうした裏方ゆえと言うべきか、仕事自体の難しさの割りには、社会的地位は高くありませんし、ギャラのレベルも決して高いとは言えません」

 同時通訳を生業としている人々の売上確保の仕組みを具体的に教えていただきたいのだが……。

 「中には年収1000万円以上の方々もいますが、たとえそうでも社会保険も退職金もないなど何の保障もありません。通常、1日4時間以内の就労を『半日』、8時間以内を『終日』とカウントして、そのいずれかでの発注となります。ただしそれには、会議前や会議期間中の夜間に資料を読んで準備する時間などは一切含まれていません。

 また、1つのエージェントにだけ登録していても、それだけで予定は埋まりませんから、複数のエージェントに登録することで、年間スケジュールが埋まるよう自分で管理せざるを得ないというのが実情です。

 仕事の単価に関しては、この世界は実績を積み重ねることで徐々にアップしていくようになっています。しかし近年は、長期不況のせいもあってか、エージェント同士が低価格競争で鎬(しのぎ)を削るようになり、ギャラも全体として抑えられ気味です。

 欧米では通訳者同士の横のネットワークがあって、全体としてギャラが下がらないようになっているのですが、日本の場合はそれがありません。各人がたこ壺化しており、特に経験の浅い人がそうした価格競争に巻き込まれて、低いギャラに甘んじてしまいがちなんです。

 それに加えて、多くのエージェントは豊富な経験や高度な能力を要する通訳業務であっても低価格で受注し、本来その業務を任せるにふさわしいベテラン通訳者(=ギャラの比較的高い人)には『ここぞ!』という場面だけ依頼し、それ以外のほとんどのシーンで経験の浅い人(=ギャラの低い人)を使うというケースが多く見られます。

 そのため、ベテラン通訳者にはそのキャリアにふさわしい活躍の場がなかなか与えられませんし、若手同様のギャラでも甘んじて引き受けるということになりかねません。こうした状況は、通訳業界全体の品質向上という面においても大いに問題があると私は思います」

 お話を聞いていると、同時通訳業というのは下請け的・労働集約的に思えるのだが、2009年に浜瀬さんが同時通訳の会社を立ち上げた背景には、「そうした苛酷な就労環境を脱却して、自ら運命をコントロールできるようにしよう」という意図があったということか?

 「まさにその通りです。自分の運命のかじ取りを自分の手に取り戻したかったことと、『通訳者を守りたい』という思いから独立したのです」

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