インタビュー
» 2011年04月01日 08時00分 公開

国際会議を支える同時通訳者、その知られざる世界――浜瀬優重さんあなたの隣のプロフェッショナル(4/5 ページ)

[嶋田淑之,Business Media 誠]

同時通訳者に求められる資質・能力とは?

 ところで、そもそも同時通訳者に求められる資質や能力とは一体どのようなものなのだろうか?

 「まず、私のキャリアを申し上げましょう。私は留学を含め、海外在住経験はありません。関西学院大学文学部英文科在学中にダブルスクールで大阪の通訳養成所に通いました。今振り返ると、同時通訳者として必要な実力のうち、この養成所で学んだことが2〜3割、実社会に出て実地で学び習得したことが7〜8割という感じでしょうか。

 大学卒業後はどこにも就職はせずにエージェントに登録し、2009年に独立するまで四半世紀にわたり、フリーランスの同時通訳業を続けました。

 こうした私の経歴を踏まえてお話しすると、同時通訳者としての能力・資質に関しては、次のようなことが言えると思います。

 第1にどんな専門分野の資料であれ、それを短時間で理解する力が必要です。仕事の前に送られてくるパワーポイントの発表資料などを訳せるように読み込んで準備し、会議当日にスピーカー本人やテクニカルアドバイザーに、その分野特有のテクニカルタームについて質問し、単語帳を作成して習得するようにしてきました。

 会議前夜になって会議資料がバイク便で送られてくることも少なくない世界ですが、こうした対応によって、多くの厳しい局面を乗り越えてくることができたように思います。この単語帳こそが、火事になったら真っ先に持って逃げる宝物です(笑)。

 第2に学習能力の高さが必要です。日本人、外国人を問わず、誰しもその人特有の言い回しがありますし、また同じ言葉でも、人によってかなり違った意味合いで使用していたりします。そうした個人差の大きい表現上のクセを短時間で理解し、それに順応していくことがまず求められます。

 また同時に、先ほどお話したように各国のなまりのキツイ英語を理解し、短時間でそれに適応して的確な日本語に訳さないといけません。また逆に、日本人の話す日本語は、1つのセンテンスに主語も述語もないのが日常茶飯事ですし、また主語と述語が対応していないなど、著しく論理性を欠いている傾向があります。そうした日本人スピーカーの話を、頭の中で瞬時に、論理的に筋の通る内容へと変換して、適切な英語に訳すことが求められます」

仕事前の浜瀬さん

同時通訳者は「心の耳」で聞くことが肝要

 英語から日本語であれ、その逆であれ、発せられた言葉だけを忠実に訳すのだろうか、それとも話の背景などを加味して、ある程度の意訳をするのだろうか?

 「一般的には前者だと思いますが、私はメッセージを訳すようにしています。私たちが翻訳マシーンと違うところは、訳すこと自体が目的なのではなくて、会議などで双方のコミュニケーションを実現するという点です。よく『心の耳で聞け!』と言われるのですが、そのスピーカーのメッセージを感じ取り、それを伝えることが大切だと私は考えています」

 同時通訳の意訳というのは、ある意味、両刃の剣である。内容を十分理解した上での意訳であれば、円滑なコミュニケーションを大いに促進するが、そうでない場合は著しい混乱を招き、会議は本来求められていた目的・目標を実現し得なくなってしまう。

 そうしたリスクの存在を前提に考えた場合、浜瀬さんの仕事ぶりはどのように評価されているのだろうか? それを示す1つの材料がある。浜瀬さんに同時通訳を依頼した半導体業界のビジネスパーソンからの声だ。

 「同僚諸氏の通訳をしていただいている現場に数多く同席し、まったく背景情報をご存じない時点であっても、コミュニケーションを成立させる“Translation”としての品質を確保され、さらに時を経るにつれて確実にビジネス上のコミュニケーションを円滑に進める“Interpretation”としての通訳品質を向上させていることを実感しています。とりわけ、日→米、米→日の双方での言外の情報を補足しての通訳は、若干の所要時間追加というデメリットがあるものの、それをコミュニケーションの円滑な継続というメリットが凌駕する領域に達しているように思います」

 浜瀬さんの意訳が評価されている証がここにあると言えよう。

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