原発20キロ圏内、さらに奥へ――福島第一原発を目指す東日本大震災ルポ・被災地を歩く(2/3 ページ)

» 2011年05月07日 08時00分 公開
[渋井哲也,Business Media 誠]

 この日、私は牛の死体を4頭ほど見かけた。以前来たときは2頭だったから増えたことになる。この牧場に至る途中でも、脇道に牛が寝ていたり、田んぼに牛の集団がいたりするのを見た。牛たちは人の管理を逃れ、餌を求めて浮浪しているのだ。そんな牛たちに対しても、4月25日から殺処分や畜舎に戻す処置が始まった。

牛の死骸にキスをする(?)牛。エム牧場にて

ほとんど人がいなくても、信号は守られていた

 次に浪江市街を目指した。浪江に入ると、iPhoneは圏外になった。とはいっても、GPSは機能している。携帯電話の電波が入らなくても、GPS機能は使えることを知った。

 20キロ圏内では震災後の工事もほとんど行われていないため、国道6号や国道114号を始め、道はでこぼこしている。地震のために隆起したと思われる箇所があちこちに見受けられる。この地域は停電かと思っていたら、信号が点滅していた。 一般家庭でも電気をつけっぱなしにしているところがあったが、人が住んでいるかどうかは定かではない。商店街では地震の影響のためか、家々が崩れている。窓ガラスも割れている。

浪江の市街地

 年度末の工事をしていた場所では、「工事中」の電子看板が点灯したままだ。たまにすれ違う車がある。ほとんど人がいないのに、交通ルールを守って、信号通りに通行する人が多い。ゴーストタウンと化した町に、信号がともり、それが守られているのはちょっと不思議な風景だった。

「原子力 明るい未来のエネルギー」

 浪江小学校が見えた。近づくと、何かの警報音が鳴り響いていた。昇降口には靴箱が倒れていた。その後、JR浪江駅に向かう。ドッグフードが置かれていた。飼い犬などが放されて、おなかを空かしているのを見かねた誰かが置いているのだろう。駅前には自動販売機があり、缶コーヒーを買うことができた。

 さらに原発に近づくことにしたが、徐々に道が悪くなっていく。ほとんど手つかずだ。津波被害というよりも、地震の被害が大きいようだ。途中の双葉町の駅近くには、「原子力 明るい未来のエネルギー」「原子力 正しい理解で 豊かなくらし」といった標語が書かれた看板があった。

浪江小学校の昇降口。靴箱が倒れたままだ(左)。双葉駅近くで「原子力 明るい未来のエネルギー」と書かれた看板を見かけた(右)

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