中国が“世界の工場”でなくなる日藤田正美の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年05月23日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 東日本大震災によって、日本だけではなく世界のサプライチェーンがずたずたに切れてしまった。半導体を使うさまざまな産業の部品が来なくなって生産を止めざるをえなくなったのである。日本ではそれに加えて、電力不足や今後の震災(政府が浜岡原発を停止させるに至った東海大地震など)を警戒して、工場を外国に移す動きも出ている。

 これまで世界の製造業がこぞって進出してきたのが中国だ。労働者の賃金が安いということに加えて、中国の巨大なマーケットが離陸しようとしているのだから、中国への進出はまさに理にかなったものだった。しかしどうやら状況は変わりつつあるようだ。

グローバリゼーションの経済学

 英エコノミスト誌最新号(5月14日号)に、「多国籍製造業、米国に戻る」という記事がある(参照リンク)。製造業が日本から脱出することを心配している日本政府としては見逃せない記事かもしれない。以下に要旨を紹介する。

 「クライアントが中国に工場を建設することを検討すると言ってきたら、他の国も検討すべきだと言うことにしている」とボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のハル・サーキン氏は言う。「例えばベトナムはどうか? あるいはいっそのこと米国で生産することもありうる」。もし米国の顧客が米市場で売るために工場を建てるというなら、サーキン氏は米国で生産することを勧めるようになってきた。別に愛国心からそう言うわけではない。グローバリゼーションの経済学が急激に変わっているからだ。

 米国の多国籍企業が発展途上国に進出してきたのは、賃金の安さだけが理由ではないにしても、大きな魅力の1つであったことは間違いない。しかしこうした新興国の経済が発展を遂げ、賃金も上昇してきた。例えば中国。2005年から2010年の間に労働者の賃金は69%も上昇した。

 「2015年ごろには米国で生産しようが、中国で生産しようが、米市場で売るのなら差がなくなっているだろう」とサーキン氏は言う。その計算の前提となっているのは、中国の賃金が年間17%上昇する一方、米国の賃金はそれほど上がらないということ、生産性は両国とも現在のペースで上昇すること、さらにドルに対して緩やかに元高がすすむことである。

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