アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。
本記事は、アスキー総合研究所の所長コラム「0(ゼロ)グラムへようこそ」にて2010年01月14日に掲載されたものです(データなどは掲載時の数値)。遠藤氏の最新コラムはアスキー総合研究所で読むことができます。
今から10年以上前の1998年に、科学雑誌『Nature』に1つの論文が掲載された。ワッツとストロガッツという2人の研究者によるもので、彼らの著書も翻訳されているからご存じの方も少なくないだろう。いわゆる「スモールワールド・ネットワーク」に関する論文である。
Twitterが人のつながりのネットワークだと知って、「6次の隔たり」のことをイメージした人も少なくないはずだ。「6次の隔たり」(Six Degrees of Separation)というのは、世界中から無作為に選んだ2人の人物が、6回前後の人間関係でつながってしまうというお話。1960年代に心理学者が実験して有名になったが、ワッツとストロガッツの論文は、これを数学的に証明したものである。
何年か前には、ドイツの新聞社が、フランクフルトのシシカバブ店のオーナーと、彼がファンだという俳優のマーロン・ブランドの関係を調べたそうだ。新聞社ならではのリソースを投入して得られた結論は、みごと6個のリンクを経てつながったというものだった。
しかしこの論文が注目された理由は、単純に「世界中の人がつながっている」というような議論ではなった点に注意すべきである。
『スモールワールド・ネットワーク/世界を知るための新科学的思考法 』(ダンカン・ワッツ著、辻竜平・友知政樹訳、阪急コミュニケーションズ刊)によれば、研究者の1人であるワッツがこのテーマに興味を持ったのも、「6次の隔たり」が理由ではなかった。
パプア・ニューギニアで、マングローブの葉にとまった何百万匹ものホタルが、きわめて正確なリズムで明滅するという映像を、テレビや映画などで見たことがある人も多いと思う。木の反対側や離れたところにいるホタルもいて、音やその他の信号でリズムをとっているわけでもないのに、「プテロプティック・エフルゲンス」というこのホタルは、すぐに光を同期できてしまう。
一方で、整然と並んだ「一覧表」のような情報が、産業社会では好んで使われてきた。あるいは、本社から支社、支社から事業部、事業部から部門へと「階層」で管理されている場合もある。コンピュータの世界も、データを規則的に並べるやり方を得意としてきた。ネットワークやデータベースも、ツリー構造やリング構造など、検索のスピードを上げるための意図を持ったルールで作られている。
ところがこうした人工的なシステムは、1カ所が壊れると全体が機能しなくなることがある。そのために、システムを二重化したり、バックアップを持たせたりしなければならない。しかし、自然界はバックアップなどという発想がなくとも動き続けている。自然界に存在するネットワークは、一見デタラメにも見えるが、きわめて強靱で、しかも想像よりもずっと高いパフォーマンスを発揮するということである。
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