「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
首相のいすに執着する菅直人氏。しかし彼を批判すると必ず「反論」が出る。その1つは、「菅さんをおろしたところで、いったい誰がうまくこの事態に対処できるというのか」というもっともなものだ。
残念ながら、これに答えるのはなかなか難しい。すぐに思い当たる議員が民主党にはいない(もちろん自民党をはじめとする野党にもいない)。どんどん首相が代わるので、次のリーダーの「製造」が間に合わないような感じさえする(「粗製濫造」そのものと言ったらあまりにも失礼というものだろうか)。
「この人ならという人材がないのならば、菅さんでもいいのではないか」という「消極的支持」の人が意外に多い感じがする。それでも、あえて言おう。自民党が言っていることに賛成するわけではないが、「菅さんを総理の座に座らせておくことは、日本にとってマイナスだ」と。
あの3月11日から100日ほどが過ぎた東北に行って来た。南三陸町、気仙沼市、陸前高田市、大船渡市と駆け足で回った。確かに一面のがれきだったところも、道は確保されていた。流された橋も一部は自衛隊によって仮の橋がかけられていた。大きく迂回しなければならないところもあったとはいえ、自動車による輸送力はずいぶん回復したはずだ。
しかし、がれきが片付いたわけではない。とりあえず置けるところに集めただけである。分別も始まっているようだが、それもごく一部のように見受けられた。普段ならゴミ処理といえば自治体の仕事なのだが、行政主体そのものが被災しているところも少なくない。これではがれき処理もなかなか進まない。大船渡駅前の繁華街などは、道は何とか確保されていても、がれきはまだ大半がそのままだった。
がれきの処理ができなければ、土地の測量だってできまい。土地の測量ができなければ、政府が土地を買い上げると言っても、簡単ではない。自動車の所有者が分からなければ、いかに壊れていても処分できないのと同じことである。だからこそ政府が先頭に立って、処理方針を示さなければならない。
それなのに、政府はようやく復興基本法を成立させただけである。これによって復興庁の新設やら復興特区の制定、復興債の発行などが方向として示されたが、具体的にはこれからだし、新しい法律も必要になる。つまり、ようやく入り口に来ただけなのである。
もちろん東日本大震災が未曾有の大災害であったことや、東京電力福島第一原発の事故が重なったことなどで、政府の対応が遅れたということもあろう。しかしいちばん大きな問題は、目の前のことをあれこれと「食い散らかす」菅首相の姿勢なのだと思う。
思い出してほしい。2010年の参院選の時、菅首相はいきなり消費税増税を打ち出した。しかも「自民党案を参考にしながら」と責任を転嫁するような言い方をした。そして参院選で大敗北を喫すると、「強い経済、強い財政、強い社会保障」として、税と社会保障の一体改革を唱えた。さらに鋤メ浜で開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)ではこれまた唐突にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加検討を打ち出した。そしてまた、この2011年度予算では過去最悪の国債発行をすることにした。
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