“職人萌え”ツアーはいかが? 新規投資ゼロ円の街おこし相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年07月21日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 「空きが出るまで1カ月待ち」――。

 最近、モノづくりへの関心が高まり、食品や自動車などの製造ラインを見学するツアーが盛況だという。また、学校教育の現場でも、こうした工場を実地で見学させる機会が増えている。今回は筆者の実体験を交えつつ、モノづくりへの関心を街おこしにつなげるアイディアを提供したい。キーワードは“職人萌え”だ。

子供の目に映った“現場”

 「職人さんたちがメッチャかっこ良かった」――。

 先月、筆者の息子が興奮気味にこんなことを言った。息子が言った職人さんとは、筆者の両親の地元、新潟県燕市で洋食器の製造に従事する人々のことだ。

 今回の当コラムは、実は偶然の産物から書いていることをご承知おきいただきたい。息子は小学校6年生。社会科の個別課題リポートを作成するため、2カ月ほど前から工場見学をテーマに据えていた。

 ただ、首都圏で開催されている工場見学ツアーはどこも満員。そこで、筆者は郷里の父に連絡し、縁のある複数の製造ラインに息子を特別に入れていただいたという次第だ。正直ベースで言えば、地縁とコネを頼って息子を潜り込ませていただいたわけだ。

 筆者の生家は、燕市のナイフ専門の町工場だった。プレス機や研磨機の音が鳴り響き、研磨のほこりが舞う環境で育ってきただけに、息子がなぜ驚くほど興奮してきたのか、当初はピンとこなかった。物心ついてから、常に自分の周囲にあった光景なだけに、身近すぎて、新鮮味がなかったと言った方が正確かもしれない。

 ただ、怪しげな資料やPCと格闘し、ヒキコモリ然とした父親の姿しか目にしたことのない息子には、モノづくりの現場が新鮮に映ったようだ。ナイフやフォークなど身近な洋食器がどのような過程を経て1つの製品に仕上がっていくのか、これをつぶさに見学できたことがとりわけ刺激的だった様子だ。

 実際、息子は工場見学の最中に200枚以上の写真を撮影してきた。加えて、検品の過程で弾かれてしまった不良品や、ステンレスの地金など多数の“お土産”を嬉々として持ち帰ってきた。

 先に触れたが、筆者は手っ取り早くコネを使い、息子の課題作りをサポートしただけだ。燕という街が持つ技術力の高さは知っていたが、空きのない大手工場の見学ツアーよりはより間近に作業工程を見られる、程度にしか考えていなかったのだ。息子の反応は嬉しい誤算だったのだ。

栓抜きをプレスした後の地金
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