川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ」
「ウチの社員は、レベルが低いので」と言う人事の方は、非常に多い。ご依頼いただいた研修の企画案をお持ちすると、「ウチの社員が理解できるだろうか」「ウチの社員にこれができるだろうか」という心配をされ、企画の変更を要望されるので、謙遜ではなく本当にそう思っておられるようだ。
そう感じてしまう理由はさまざまなのだろうが、研修を担当するようになってからの勉強量がそう思わせるのかもしれないし、普段から人事部に寄せられる要望や質問の内容でそんな風に感じるのかもしれないし、社長や現場長がそのように人事担当者に言っているからかもしれない。
ドラッカーの有名な言葉に、「強みに集中せよ」がある。意味の1つは、個人にしても組織にしても、苦手や弱みを普通レベルや得意となるまで引き上げていくことはとても難しいので、強みをさらに伸ばすほうが効果的である、ということ。もう1つは、「組織のメンバーが同じような強みを持っていても、それは外から見れば弱みがある状態」であって、逆に「各々が異なる強みを持てば、外から見て弱みがない状態にすることができる」ということだ。
この観点から考えると、「ウチの社員は、レベルが低いので」という発言は、まさにその逆で、弱みに焦点が当たってしまっていることがよく分かる。
自社の人材には共通してこのような弱みがあり、それが原因で成果が上がらなかったり、組織がうまく回らなかったりしているので、その克服のために研修を行う(研修はそのためにある)、というのが多くの人事部が持つパラダイムである。
このような視点で企画される研修は、最低限のレベルを設定してそれをクリアすることを求める。また、みんなが同じように共通してできるべき内容を決めて、それを習得することを求める。形式が異なるだけで、運転免許の試験や資格試験のようなものと発想は同じだ。社員の弱みに焦点が当たっている人事マンが行う研修は、知らないことやできないことを、ちゃんとできるようになってもらうような内容ばかりになる。
ドラッカーの「強みに集中せよ」は、そのようなパラダイムでは組織は強くならないと言っている。人には誰しも弱点や改善すべき点があるが、逆に、誰にだって強みや長所があるのだ。そこに焦点を当て、それをもっと伸ばせというのが「強みに集中せよ」の意味であり、人事部はこの言葉に基づいてパラダイムを転換すべきだろう。
研修を効果的なものにしたいという目的で、テーマや伝え方や講師や時間帯や参加者やとさまざまな工夫をしておられるのはよく見て分かっているが、もっと根本的なことに気付かねばならない。研修は、弱みの克服のためにあるのではなく、強みの伸長のための手段なのである。
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