もう一度、先のテレビ報道をチェックしてみる。筆者が一番引っかかったのが、この部分だ。
AIJ投資顧問が一昨年1年間に実施した先物取引とオプション取引を合わせたデリバティブ取引高は、約57兆円に上りました。こうした損失リスクがある取引を積極的に行った結果、多額の損失が発生し、企業から預かった年金資金を失った疑いが出ています。
記事にある「デリバティブ」とは、指摘されているように先物やオプションがある。先物とは、3カ月、6カ月など先々の売買を現段階で取引するものであり、オプションは先々の売買を行う「権利」を投資対象とする。
確かに、市況の先行きを見誤れば、損失が発生する。ただ、この57兆円はいただけない。先物やオプション取引は、将来の市況を予想して取引を行う関係上、現実にはやりとりしない元本を設定する。これを「想定元本」と呼ぶが、あくまでもこれは便宜上のものであり、この部分が損失になるわけではないのだ。
FX取引業者のサイトから参照した次のような例えが分かりやすい。
想定元本とは、差し入れた証拠金(市況見通しによっては損失が生じ、なくなる可能性もあり)ではなく、取引数量のようなもの。仮に口座に10万円入金し、1万ドル(約90万円)を買ったとすると、10万円ではなく、1万ドル(90万円)が想定元本のイメージとなる
つまり、先の報道は、この「90万円」を指し、さも危ういというイメージを視聴者に植え付けてしまったわけだ。追記しておくと、デリバティブという言葉には大きく2つの種類がある。1つは、東京証券取引所や東京金融先物取引所に上場している「指数先物」や「指数先物オプション」だ。
先に触れた通り、市況見通しが外れれば、投資家に損失が生じるが、3カ月、6カ月後には必ず反対売買で決済を行わねばならない。つまり、この時点で損失の存在が表面化する。当該の投資顧問のように、何年も損失を隠し通すことは物理的に不可能だ。
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