1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo
当欄で、大手メディアによるとんちんかんな見出し、すなわち、読者をミスリードする経済ニュースに苦言を呈した(関連記事)。今回も一部テレビで同じような事象に遭遇したので、あえて書かせていただく。今回は、プロ同士の金融取引が舞台となった事件だったが、「大げさならばなんでもよいのか」と筆者は大きな疑問を抱いた次第だ。
独立系の資産運用会社、AIJ投資顧問が顧客から預かった受託資産2000億円規模を消失させていたことで、新聞、テレビはこれを大きく報じた。同投資顧問の顧客には、中堅企業の年金基金も含まれていただけに、老後の資金に窮する向きが増えるとの懸念も台頭。消失規模の大きさとともに、投資顧問のモラルが厳しく批判されているのはご存じの通り。
一連の報道の中で、筆者は以下のような民放ニュースに接し、驚きを禁じえなかった。
〈AIJ、57兆円のデリバティブ取引〉
デリバティブ取引の概要を知らない向きには、同投資顧問が国家予算レベルの損失を生じさせたように映ったのではないだろうか。だが、はっきり指摘させてもらうと、この見出しはミスリードだ。かつ、同投資顧問の引き起こした重大な過失の本質を見誤っている。
以下は、当該のニュースのネット配信された記事の全文だ。
年金消失のAIJが57兆円のデリバティブ取引(テレビ朝日系、2月25日(土)13時16分配信)
年金資金2000億円規模の大半を失ったAIJ投資顧問が、57兆円のデリバティブ取引を行っていたことが分かりました。こうしたリスクのある取引で失敗した疑いがあります。
AIJ投資顧問が一昨年1年間に実施した先物取引とオプション取引を合わせたデリバティブ取引高は、約57兆円に上りました。こうした損失リスクがある取引を積極的に行った結果、多額の損失が発生し、企業から預かった年金資金を失った疑いが出ています。また、AIJ投資顧問は、高い利回りをうたって実態と異なる虚偽の説明をしていた可能性があります。証券取引等監視委員会と金融庁は、年金資金が運用以外の目的に流用するような悪質な行為がなかったか、刑事告発も視野に調べています。また、年金資金を運用するほかの投資顧問会社約260社について、問題がないかどうか週明けから本格的に調査を始めます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング