グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。
※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2012年3月9日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。
ジャストシステムといえば、日本語ワープロソフト「一太郎」を思い出す人が多いだろう。根強いファンに支えられ、今年、発売30周年を迎える。そのジャストシステムが2011年10月にインターネットリサーチのサービス「ファストアスク」を開始した。その狙いはどこにあるのだろうか。同社を訪問し、担当責任者にインタビューした。
「ファストアスクを開発した我々の狙いはズバリ、“ネット調査の仕組みのコモディティー化”です」。インタビュー冒頭から核心を責任者は語り出した。
同社は一太郎を始めとするパッケージソフトを多数発売している“モノ作り”の会社である。その業務の中でさまざまな必要が生じ、自身がネットリサーチ各社に調査を依頼してきた。その結果、「ネットリサーチは意外と便利ではない」という思いが高まっていったのだと言う。
ネットリサーチの業務フローは「調査設計→モニターのスクリーニング調査(本調査回答者の抽出)→本調査→集計→分析」となる。一連の流れの中で感じた不満は、「確かに調査そのものは短時間で回答が得られるが、そのほかの部分で調査会社の担当者など“人”が介在する部分が多く、面倒なやりとりと時間がかかってしまう」ことだったという。
「それならばいっそ、自分たちで“仕組み”を作ってしまい、セルフサービスで行えるようにすればいいのではないかと考えた」
これは、流行りの“クラウドサービス”とも言い換えられるだろう。調査票の設計は画面上でユーザーが自分自身で行える。モニターの抽出ももちろんできる。回答結果は自動的に集計される。分析レポートの作成は請け負わない。徹底した“仕組み化”を図っているのである。
人手を介する部分は唯一、調査票配信前のチェックのみ。調査票の質問の設計や表現に問題がある場合はクライアントに指摘する。人が関わるプロセスを簡略化しているからこそ、その部分は精緻に行うというポリシーだ。
「我々はネットリサーチ会社を目指していないのです」。
アンケートモニターを抱えているため、先行各社と同様なサービスに見えてしまうが、そのモニターも一部は大手ネットリサーチ会社とのアライアンスによって借り受けているという。もちろん独自に自社のパッケージソフトのユーザーやECショップユーザーに募集をかけ、独自のモニターも作っている。しかし、売り物はあくまで抱えている“モニター”ではなく“仕組み”なのである。
「もちろん、参入を検討している時には、数百万人に上る自社の登録ユーザーをベースに考えたこともありました」と正直なところを明かしてくれたが、それはあまりに属性が偏りすぎているし、個人情報の観点からもモニター化は簡単にできない。ゆえに、自社独自モニターは自社ユーザーだけでなく、大手先行各社のやり方を徹底して研究し、属性の偏りにも気を配って広く募集を展開したという。
ネットリサーチ会社と同等のモニターを保有しつつ、それに対するリサーチをセルフサービスで行える“しくみ”を提供する。それが、ジャストシステムが見出した独自のポジションなのである。
自動化された“しくみ”が売り物であるため、「ファストアスク」の利用価格は驚くほど安い。また、人が介在する部分を最小化しているため、例え極めて少ないサンプル数での実施でも、同社にとって「割が合わない」ということには陥らない。故に、「今まで年に数回しか実施できていなかった調査が頻繁に行えるようになった」というクライアントの声や、調査をしたくてもできなかった潜在的なユーザーが利用するようになっているという。
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