「リサーチ会社は目指しません」――ジャストシステムのリサーチ事業の狙いそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2012年03月14日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
前のページへ 1|2       

その戦いの土俵は本当に正しい?

Creative Commons. Some rights reserved by @yakobusan Jakob Montrasio

 責任者は「将来的にはさらなる“仕組み化”を図っていきたい」と構想を語る。ジャストシステムの最大の強みは、30年にわたる一太郎でつちかってきた日本語処理技術だ。それを元にしたフリーアンサーからのテキストマイニングや、調査票の設計を文章構造から自動的に生成する仕組み、さらには配信前のチェック時に日本語校正技術を生かしてさらなる自動化を進める、といった拡充が考えられるという。

 米ハーバード大学ビジネススクールの名誉教授だったセオドア・レビット氏はかつて、自動車や航空機の普及により衰退の一途をたどった米国の鉄道会社に対し、その理由を「鉄道会社は自社の事業を鉄道事業としてとらえており、輸送事業として考えることができなかったからだ」と指摘した。

 これに対して日本の近代私鉄のビジネスモデルは、阪急電鉄の創始者・小林一三氏が開発した「沿線開発モデル」だ。沿線で住宅開発を行い、ターミナルには集客の拠点として百貨店を設置。さらに鉄道を使って出かける場所として、歌劇場、野球スタジアム、温泉や動物園などを次々と創りあげていった。これにより鉄道の乗客を創造したのだ。

 「鉄道会社」に終始した米国の鉄道会社と、「沿線開発」というより広い事業範囲を設定した日本の私鉄。自社の“戦いの土俵”=ドメインをどのように設定するかで戦い方や競合は大きく変わる。

 最後発でネットリサーチ業界に参入しようとする場合、よりクライアントに対するサービスレベルを上げようと「フルサービス」、つまり調査設計からレポートの作成までを人手をかけてさらに提供品質を上げようと考えがちとなる。しかし、ジャストシステムは、「ネットリサーチの仕組みの提供」という、新たな戦いのドメインを自ら設定することによって無用な競合を回避することに成功しているのである。

 新たなドメイン=新天地を切り拓いたジャストシステムと「ファストアスク」。そのサービスが今後どのように進化していくのかが楽しみである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。Facebookでもいろいろ発言しています。


関連キーワード

マーケティング


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.