結局、環境変化への対応力を失っている既存のホテルや結婚式場には、挙式や披露宴のイニシアチブを持つ現代の新郎新婦を満足させる力のないところが多いということだ。
「結婚式の招待状って“脅迫状”みたいなものだと思いませんか?」と浅田さんは、冗談めかして、いささか過激なことを言う。
「招待状が来ると、『またかよ!』という感じで、期待もしないで義務感で出席するようなことが多いですよね。それなのに行ってみたら、そこに驚きと感動があったとすれば、どうですか? 出席者のそうした驚きや感動はそのまま新郎新婦にも伝わり、新郎新婦はもとより、その両親も深い満足感に包まれると思いませんか? 弊社が目指しているのは、そういう挙式や披露宴なんですよ」
ノバレーゼの行動指針には、「付加価値の創造」とうたわれており、そこには「私たちは常に世の中にないものを生み出すことに邁進(まいしん)します」と書かれている。これは、言い換えるならば、出席者たちが、「まさか、そこまでしてくれるとは思わなかった」と驚き、感動しつつも、「でも、自分が求めていたのは、実はこういう披露宴だったのかもしれない」と思うような、すなわち、単なるニーズ対応に留まらない、出席者(結果的に新郎新婦)の潜在的欲求に応えることを意味している。
日本の平均初婚年齢は過去20年間、右肩上がりに上昇を続け、厚生労働省によると2010年には男性30.5歳、女性28.8歳となっている。ノバレーゼはこの世代(20代後半〜30代)の中でも、経済的に比較的ゆとりのあるアッパーミドル層を顧客ターゲットに設定している。
だが、彼らは社会に出てからの年数が長く、当然、一流のサービスに触れた経験も豊富だ。料理1つをとっても、食材の仕入れルート、調理方法、盛り付け、供し方などについて、詳しい知識や経験を持った人も多い。新郎新婦が大切に思い、おもてなししたいと考えている仲間や友人たちもまた、それは同様である。そうした人々に驚きや感動を与えるのは難しいだろう。そこで浅田さんは、社内のシステムなどに工夫を凝らした。
「私は創業以来、“従業員満足至上主義”を追求してきました。社員が目を輝かせて、イキイキと仕事をすれば、トキメキに満ちたサービスを創出することができ、それが結果として“顧客満足至上主義”につながるからです。
『自分たちが面白いと思うことをやろう! 自分が結婚する時にはぜひノバレーゼで挙式や披露宴をしたいと社員ひとりひとりが思えるような披露宴を作ろう!』と、私は言い続けてきました。そして、それが実現できるよう、社内では裁量権の委譲を進め、公序良俗に反せず、顧客の求めることであれば、自由にやらせるという組織風土を作ってきました」
そう言って、浅田さんは興味深いエピソードを紹介してくれた。
「ある時、新郎新婦になる人が『披露宴で花火を打ち上げたい』と言い出したんですね。常識的には、『花火を打ち上げるには特別な資格が必要で、予算の範囲内で専門の花火師を呼ぶことは難しいから』と言って断るところです。しかし、それを聞いた男性ウエディングプランナーは『新郎新婦にとって、一世一代の晴れ舞台なのだから』と、2カ月で花火師の資格を取って、新郎新婦の夢をかなえてあげたのです」
新郎新婦側としても、あくまで1つの夢として、さほど期待もせず、ダメ元で言ってみたのかもしれない。しかし、ノバレーゼの担当者はそれを本当にかなえてしまい、「まさか、そこまでしてくれるとは思わなかった」という驚きと感動を与えたということだ。
こうした顧客満足の質をより一層高めていくために、浅田さんは「ノバレーゼ・レボリューション」という全社員対象の業務改革提案制度を作り、優秀な提案を実施に移すのはもちろんのこと、その提案者には100万円を贈っているという。
またMVP制度を設け、毎年1回、その年度で最もクオリティの高いサービスを提供した(結果的に売り上げ・組数も多い)社員を選出し表彰するとともに、その名前・所属・顔写真を本社ロビーに掲げるなど、顧客満足度向上に対する社員のモチベーションをアップさせるためのさまざまな制度を実施している。ちなみに、3回MVPに選出されると「殿堂入り」となり、年間120万円使用できるアメリカン・エキスプレスのゴールドカードを、ノバレーゼに在籍し続ける限り、付与されるそうだ。
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