「社員の声を聞きまくれ!」がもたらした企業変革(1/3 ページ)

» 2012年03月30日 08時00分 公開
[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:石塚しのぶ

ダイナ・サーチ、インク代表取締役。1972年南カリフォルニア大学修士課程卒業。米国企業で職歴を積んだ後、1982年にダイナ・サーチ、インクを設立。以来、ロサンゼルスを拠点に、日米間ビジネスのコンサルティング業に従事している。著書に「『顧客』の時代がやってきた!『売れる仕組み』に革命が起きる(インプレス・コミュニケーションズ)」「ザッポスの奇跡 改訂版(廣済堂)」がある。


 インドのベンガル州ノディアを本拠とし、近年目覚しい躍進を遂げ、IBMなどグローバル大手からも一目置かれているITアウトソーシング・サービス・プロバイダー、HCLテクノロジーという会社をご存じだろうか。

『社員を大切にする会社 ―― 5万人と歩んだ企業変革のストーリー』

 つい先日、東京出張の際に同社CEOであるヴィニート・ナイアー氏の著書『社員を大切にする会社 ―― 5万人と歩んだ企業変革のストーリー』(英治出版、穂坂かほり訳)を手にとった。

 企業文化に関連する本は日本語、英語を問わず一通り目を通すようにしているのだが、今まで数多と読んだ本の中でも、目の覚めるようなひらめきと共感を数多く与えてくれる刺激的な本だった。同書では「企業文化」という言葉は使われていないものの、私にしてみればこれはつまるところ企業文化育成の本だ。新しい時代に対応する戦略的な企業文化を築く上で実践に役立つ教訓が詰まっている。今回は、同書を読んで心に強く感じたことを書いてみたいと思う。

 まず、「何が書かれている本なのか」を簡単に説明すると、これは30年の歴史を持つ大手成熟企業が、経営陣や管理者層がすべての権限を握る従来の階層的な組織構造をかなぐり捨て、「従業員第一、顧客第二、マネジメント層第三」という経営理念を掲げて、衝撃的な変革を遂げた顛末(てんまつ)を実に分かりやすい言葉で書いた本である。特にCEOであるナイアー氏のごく個人的な自問自答や試行錯誤が率直に述べられている点が共感と感動を呼ぶ。

 オーソドックスなヒエラルキーをひっくり返し、社員が頂点に立つ「逆ピラミッド型」の組織構造を作るという話は実はよく聞かれる。しかし、理屈はともかく、「それをいかに実践するのか」というところが肝となる。

 同書では、実際に顧客に価値を創出している現場の人間に権限、責任、アカウンタビリティが帰属する組織を作るためにナイアー氏が行ったことの数々が解説されている。そして、その中でも企業変革のための実践的なエッセンスとしてひときわ私の心の中に残ったのが「社員の声を徹底的に聞く」という同氏の姿勢と仕組みであった。

おざなりにされる「社員の声」

 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログなどのソーシャル・プラットフォームの普及により、顧客の声の持つ影響力が強大化するにつれて、「顧客の声を聞く」ことの重要性については近年盛んに話されるようになってきた。

 一歩進んで、「顧客の声を活用する」ということについては大いに改善の余地があるにせよ、多くの企業が、従来型の「VOC(ボイス・オブ・カスタマー)」プログラムに加えて、Webでのモニタリング・プログラムなども積極的に設け始めている。

 その一方、「社員の声は?」となると、大半の場合見過ごされてしまっている。「これは、とんでもない宝の持ち腐れではないか」というのが、私が同書を読んで改めて得た印象である。

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