アニメから実写へ、CGが変える映画監督のキャリアパスアニメビジネスの今(3/4 ページ)

» 2012年05月01日 08時01分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

日本におけるアニメ監督の立ち位置

 一方、日本はどうなのか。1990年代中盤以降、CG技術が導入されながらも、セルアニメからCGアニメに移行した人間は非常に少ない。さらに米国のように実写も手がけたとなればほとんどいないに等しいが、これはやはり日本が現在もセルアニメ中心ということが大きな要因であると考えられる。事実、米国においても、セルアニメーション時代には実写も手がけたという監督はほとんどいない。

 1950年代以降ディズニーは実写作品に取り組むようになったが、監督は『史上最大の作戦』のケン・アナキンなど実写畑の人々であり、セルアニメーションと実写は別々のものと考えられていた。実際、制作手法的にもセルアニメーションと実写では職制や工程、必要とされるスキルがかなり異なっている。

庵野秀明氏が監督を務めた実写映画『ラブ&ポップ』

 従って、セルアニメが主流の日本においてはアニメ監督が実写監督を務めるのはまれである。

 アニメ監督で実写も手がけているのは押井守監督や大友克洋監督、庵野秀明監督、神山健治監督など。彼らはリアルなタッチの表現志向で、作品をアニメではなく「映画」ととらえる諸氏である(押井、大友両氏は世代的にも「映画指向」であるが)。

 「アニメは表現手段の1つであり、ある意味究極の"特撮"である」と位置付けているのではないか。従って、もし自分の作りたいものにもっと最適な表現方法があるならそちらに向かって移行できる監督たちだろう。

CGアニメーション監督と特撮監督

 ところが、日本ではアニメではなく別の場所から映画監督になる道が開けた。それは特撮だ。先述したように、もともと特撮の役割は実写の表現領域の拡大にあり、その意味でCGとの親和性は非常に高い。

 日本では、結果的であるかもしれないが、この部門が米国におけるCGアニメーションの位置に相当するようになった。その結果、特撮から監督へのキャリアパスが開けたのである。もちろん、日本にはゴジラシリーズやウルトラマンシリーズの円谷英二という大巨匠に源を発する特撮の流れが確立されているが、役割としてはあくまで特技・特撮監督であり作品全体の制作を司ることはなかった。

山崎貴氏が監督を務めた実写映画『ALWAYS 三丁目の夕日』

 ところが、CGの表現領域が拡大することで、実写映画に当たり前に取り入れられるようになった。

 そのため、その知識や経験、演出手法を持った監督のニーズが高まってきたのだが、その代表が山崎貴監督、樋口真嗣監督だろう(樋口監督に関しては元々アニメーターとしての側面もありその方面の才能ももちろんあるだろうが、特技・特撮としてカテゴライズ)。

 今や2人とも本線の大作映画を任せられる存在となったが、これらの日本の監督と、実写も手がけるようになったハリウッドのアニメーション監督の共通点は「デジタルリテラシー」である。

デジタルが分からないと映像が作れない時代

 それをひと言で言うならば、「デジタルによる画作りが分かる」ということになる。デジタル技術による画面構成は今や映像制作に欠かせない。特にSFやファンタジー系の作品でその重要度は増す。どのシーンでどのようにCGを入れるのか。また、CGと実写ではどちらが表現としてより効果的なのか。さらには、コスト的にはどちらが安価なのか。脚本や絵コンテの段階でそれらを判断して計算できるレベルにないと、少なくとも現在の大作商業映画は作れないような状況となっている。

 だからこそ、山崎、樋口両監督が『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年、興収32億円)、『日本沈没』(2006年、53億円)、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010年、41億円)、『のぼうの城』(本年公開予定)といったCG表現が不可欠の大作を任せられるのである。

 世界的な映像の発信地であるハリウッド映画のトレンドを考えると、CGを多用するファンタジー系、アクション系作品が主流であるため、今後もデジタルが分かる監督の需要はますます高まっていくはずである。

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