制作量は日本の2.5倍でも……中国アニメーション産業の光と影：アニメビジネスの今（2/6 ページ）

[増田弘道，Business Media 誠]

アニメーションと不動産業の深い関係

　今年、杭州アニメフェスティバルが行われるに当たって、話題となったのは開催地の移転であった。もともと行われていた蕭山のレジャーパーク「休博園」から、クルマで10分ほどの濱江区にある白馬湖に移ること自体はそれほど注目されることではないが、会場自体がフェスティバルのために建てられたとなれば話は別だ。休博園の展示会場は多少施設が古く、あまりいい印象を持ってなかったので否が応でも期待感は高まった。

　そんな気持ちに応えてくれたのが、会場となった建国飯店であった。サミットやセミナー、交流会などが行われるホテルだが、曲線を生かしたユニークな設計である。同様のコンセプトの棟がほかにも6つほどあり、現在稼働しているのはまだ2つだけのようだが、ライトアップされるとその奥行きが伝わってくる。

建国飯店、右はライトアップ後（クリックで拡大）

　杭州アニメフェスティバルのスペースは初回が2万平方メートル、2・3回目が4万6000平方メートル、4〜7回目は6万平方メートル、そして今回は正式なデータはないものの会場の見取り図から推測すると展示会場AとBで7万6800平方メートル、コスプレショーに使われていた展示会場B地下のスペース2700平方メートルと合わせると、約8万平方メートルになる。

　東京ビッグサイトの東1･2･3ホールを使用する東京国際アニメフェア（約2万6000平方メートル）の3倍規模という堂々たる展示施設であるが、これらの施設が杭州アニメフェスティバルのために建てられたのである。

2つの展示会場

　……といっても、そこには浙江省で最大の不動産企業である中南グループが市政府に働きかけたという事情がある。中南グループは傘下に中南カートゥーンという製作会社があり、アニメーション事業に非常に積極的である（オーナーの子女が経営）。

　そういう事情もあり、中南グループがフェスティバルの会場となるホテルと展示場を企画して提案し受け入れられたとのことである。隣に動漫ミュージアムも建設予定ということで、アニメーションをテーマとした一大エンタテインメント・パークを目指しているようだ。はかなく消え去った日本の国立メディア芸術センター（アニメの殿堂）と比べても、中国の勢いを感じる話である。不動産業が盛んな中国らしい建設経緯だが、後述するアニメーション産業との深い関係を物語るに相応しいエピソードでもある。

海賊版グッズ販売業者が堂々と出店

　展示会場Aに入るとCCTV（中国中央電視台）のブースがあり、その向かいには地元のテレビ局が陣取っている。何事にも序列が重視される中国らしく、会場の配置も社会的序列の順だ。展示会場Aは全国ネットのCCTV、地元テレビ局、SMG（上海メディアグループ）などを始め、各省の動漫基地（アニメーション企業が集積している産業基地）や大手有力製作会社、2階は大手に準じる製作会社や正式グッズを売る物販企業がある。

　そして、展示会場Bは1階こそ製作会社が出展しているが、2階の半分から3階にかけては、以前よりは少なくなったものの海賊版のグッズ販売業者が店を開いている。

CCTVのブース

　このような状況下、日本からの出展社は極めて少ない。目に付いたのは、原画のみの展示であるが、毎年参加している集英社ぐらい。バンダイの大きなブースがありガンダムシリーズのプラモデルなどを売っているが、これは中国の販売代理店がやっているということだ。あとは、デジタルハリウッドや文教大学院大学、宝塚大学といった教育機関程度である。

集英社のブース

　余談だが、出展社のパンフを読んだ時、「京都動漫（中国）代表処（Kyoto Animation （China） Office）の名前が目に付いた。ひょっとして『けいおん！』や『涼宮ハルヒの憂鬱』で有名な京都アニメーション!?

　会社概要を見ると1981年設立となっており、代表の名前も同じ。この種のコンベンションに決して出展することのない、我が道を行くことで有名なスタジオがいきなり杭州に登場するとは露ほども思っていなかったので非常に驚いた。

　ということで、早速ブースに向かったところ、そこはただの地元業者の物販ブースであった。さすがにこれはちょっとひどい。スタジオにとっては迷惑千万だろう。中国で勝手に登録されていた『クレヨンしんちゃん』の商標登録・著作権を巡る裁判で、ようやく日本サイドが勝訴したというニュースを聞いたばかりだったが、この状況を見ると一般レベルの意識はまだまだであることを感じざるを得ない。