制作量は日本の2.5倍でも……中国アニメーション産業の光と影アニメビジネスの今(6/6 ページ)

» 2012年05月15日 08時01分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]
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ビジネスモデルの不在

 中国アニメーションの問題点をいろいろ書き連ねて来たが、何より問題なのはビジネスモデルの不在だ。要は収益を得る手段がないのである。

 少し前の情報だが、テレビの放映権料を聞くと驚くほど安かった。CCTVなどメジャーなテレビ局系列の制作会社であれば制作費が出ることもあるだろうが、一般的には分単位で放映権料が支払わられるという。それでは到底制作費をまかなえないので、当然商品化やパッケージといった二次利用を当てにしなければならないが、海賊商品のためにその種の収益は見込めない。海外に活路を求めるにしても競争力がない。

 それならば、収益を得られる劇場初公開で勝負という手段もあるが(今年の中国の興行収入は恐らく日本を抜いて世界第2位だろう)、テレビより格段に高いクオリティを要求される劇場レベルのものを作るのは現状では難しい。日本で盛んなアニソンショーやミュージカルといった、キャッシュ収入があるライブエンタテインメントビジネスもそのモデルが不在である。

 現在のような海賊版天国の状況は、海外の作品を享受する場合はいいかもしれないが、いざ自分たちが作る段になれば地獄である。そのことを明確に自覚しない限り、アニメーションをビジネス化するのは極めて難しい。

「フリーミアム」モデルの中国アニメーションの未来

 中国のエンタテインメントビジネスを見ると、ある種「フリーミアム」が実現している社会である。ただし、その先にあるはずの収益化ビジネスモデルがないため、もうかるのは海賊版業者だけといった状況になっている。しかし、ビジネスとしてアニメーションをやっているのであれば、どこかで付加価値を生み出させなければその社会的意義はないに等しい。

 収益化ビジネスモデルを作り上げない限り、どれだけ政府が力を入れたとしても産業としての継続性は危うい。アニメーション制作の資金源が政府と不動産という状態が続いている現状がどこまで続くのか。少なくともバブルと言われている不動産市場が縮小に向かえば、アニメーションの制作量が一気に減少することは容易に推測できる。

 それを避けるためには『喜羊羊』クラスの大ヒットをいくつか飛ばし、試行錯誤しながらも中国における最適ビジネスモデルを作り上げるしかないだろう。そして、それによって中国のアニメーション産業が立ちゆくようになれば、理論的には日本のアニメに対する門戸も再度開かれることになる(はずだ)。

 日本におけるアニメ工程の一部がアジア諸国にアウトソーシングされ、日本のアニメ産業が空洞化し、制作拠点が移るのではという懸念も出されていたが、中国の現状を見る限り当分その心配はないようである。

増田弘道(ますだ・ひろみち)

1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。

ブログ:「アニメビジネスがわかる


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