各地の武者たちが勢揃いしたあと、野馬追の中でもメーンイベントの1つとされる甲冑競馬が始まった。
「若武者たちは事故を避けるために兜を脱ぎ、白鉢巻きをしめる。駿足に自信のある馬にまたがり、先祖伝来の旗指し物をなびかせながら風を切って疾走する」(原町観光協会/相馬野馬追ガイドブックより)。
私の目の前を、ブンブンと音を立てたいくつもの旗、そして武者が駿馬とともに全速力で駆け抜ける。
この種のイベントでは、多分に“見せ物”的なレースが行われると聞くが、野馬追は全くの別物だ。
スタンド席から、馬場近くの通路まで移動して観戦してみると、武者たちの激しい息づかいや、馬たちの蹄(ひづめ)の音が響く。旗指し物が風の抵抗を受けるはずなので、通常の騎馬での競争よりもはるかに乗り手のスキルが要求されることも容易に想像できた。
郷ごとの競争が繰り広げられるたび、4万人以上が詰めかけた祭地場にどよめきがうずまき、歓声が響く。
地元の人間でない私でさえ、息を飲む展開が続くのだ。強制的に住いと暮らしを奪われた小高、標葉の騎馬が善戦すると、会場全体から拍手が沸き起こる。
私個人は、騎手に知り合いがいるわけではない。ただ、昨年避難先の新潟県三条市で知り合った人や、友人のつてでいくつかの経緯は知っていた。
浜通りを離れ、100キロ以上離れた会津地方、あるいは県外の山形県米沢市や新潟県などに避難した人たちは、野馬追の練習のため、2週に一度、あるいは週に何度も故郷に戻っていた。
不自由な生活の中で、野馬追にかけてきた住民たちの思いはいかばかりか。
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