悪者は誰? よく分からない社会になりつつある佐々木俊尚×松井博 グローバル化と幸福の怪しい関係(3)(4/6 ページ)

» 2012年09月10日 08時05分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

松井:庶民には還元しないので、チャドでは石油が出るようになってから、平均寿命が縮まっているんですよ。ヒドイ話ですよね。道義的に責任を感じないのかなあ、などと考えてしまう。でもエクソンモービルは、その土地を治めるのは自分たちの仕事じゃない、チャドの政府がやることなんだ、といったスタンスなんですよね。

佐々木:おいしいところだけ持っていければ……ということ。分かりやすい話ですね。

松井:ものすごく分かりやすいですよね。例えばチャドの政府にプレッシャーをかけたいのであれば、米国政府にロビー活動を行う。逆に米国政府が行こうとしていることが気に入らなかったら、反対運動も行う。

 例えば「地球温暖化が進んでいる」ということになれば、石油を掘って燃やしている場合じゃない、という話になる。そうすると、地球温暖化懐疑派に資金援助をするわけですよ。真っ向から反対とは言わず、懐疑派にお金をあげて、気が付くと懐疑派がちゃんと増えて、そうして二酸化炭素の排出に税金かけましょうという話がおじゃんになってしまう。

 最近、「やっぱり地球温暖化が進んでいるんじゃないか」という話になっています。その間に何が起きているかというと、北極海の氷が薄くなっているわけですよ。そうしたらその下で石油が掘れるかもしれない。そしてロシアと交渉して採掘権を手にしてしまうわけですよ。石油が掘れれば、地球温暖化もOKという考えはすごいですよね。

 しかし、それだけ掘っているのに石油の値段が上がっています。私が米国に引っ越しした頃は、1ガロン=1ドル50セントか2ドルくらいだったのに、いまでは4ドルくらい。昔はガソリン代を気にする人はあまりいなかったのですが、今では家計を圧迫する要因になってきていて、ますます中産階級の生活が苦しくなっています。

佐々木:分かりにくいのは、富がどこから収奪されて、どこへばらまかれているのかということ。1980年代に「多国籍企業」と言っていた頃はまだ分かりやすかったんですよ。ビジネスが垂直統合だったので、その企業に富がたくさん蓄積されれば、法人税がたくさん入るという分かりやすい構造でした。それがプラットフォーム化されることによって、垂直統合から水平分業化した。そうすると富が薄く収奪されて、薄くあちこちにばらまかれている。非常に見えにくい状態になっているんですよね。

松井:だから「悪者が誰か」が分からないんですよ。

悪者は誰か? よく分からなくなってきている(写真と本文は関係ありません)

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