悪者は誰? よく分からない社会になりつつある佐々木俊尚×松井博 グローバル化と幸福の怪しい関係(3)(1/6 ページ)

» 2012年09月10日 08時05分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

佐々木俊尚×松井博 グローバル化と幸福の怪しい関係:

 少子・高齢化に歯止めがかからない日本市場は、「縮小していくのみ」「よくて横ばい」といった見方が強い。企業は沈みゆく市場から抜け出し、グローバル化の中で新たな“財宝”を手にしようとしている。製造拠点を海外に移転したり、海外との取引を増やしたり、社内公用語を英語にしたり――。

 こうした一連の動きによって、私たちの働き方はどのように変化していくのだろうか。また企業が巨大化すれば、私たちの生活は充実するのだろうか。この問題について、ITやメディア事情に詳しいジャーナリストの佐々木俊尚さんと、アップルのどん底時代と黄金時代を経験した松井博さんが徹底的に語り合った。全9回でお送りする。


グローバリゼーションの現実

佐々木俊尚氏

松井:電子機器などを生産しているフォックスコン(Foxconn:本社・台湾)は社内で自殺者が出たので、労働環境が問題になっていましたが、こんなことを言っている人がいました。「フォックスコンの工場では70万人ほどが働いている。そんなに人がいれば、自殺をする人が10人、20人いても不思議ではない」と。

 70万人という数は、もう都市レベルですよね。しかも労働人口しかいなくて、老人や子どもはいない。だから自殺をする人がでてきても不思議ではない、とその人は言っていました。ちなみにフォックスコンで働けば寮のような部屋に入れられて、1部屋に8〜10人が寝泊りしています。

佐々木:あんまり住みたくないですね(笑)。

松井:ですよね(笑)。労働時間は10時間、12時間は当たり前なのですが、「多くの労働者はそれなりに楽しく生きている」というんですよ。なぜならフォックスコンで働けば、お金がそこそこ手に入って、そのお金を故郷に仕送りして、お父さんやお母さんのために電気製品を買ってあげたり、兄弟の教育費を出してあげたりすることができるので。

 ただフォックスコンの中にいて、出世するのはかなり難しいそうですね。その人はこのようにも言っていました「出世したければ、フォックスコンで働いていてはダメ。できるだけ早く転職して、うまくステップアップしたほうがいいね」と。

佐々木:功利主義的ですね。

松井:ですね。シリコンバレーでも3年ごとに転職する人がいました。そんなイメージだったのですが、フォックスコンでは数カ月働いて、辞めてしまう人が多いようですね。

佐々木:早いですね。

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