「市長、俺だよ俺!」 千葉市の税金を滞納する人々最年少政令市長が経験した地方政治改革(3)(2/3 ページ)

» 2012年11月27日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

受益者負担の原則を

熊谷 これが行政というか政治家のがんだと思いますが、千葉市はずっと負担の先送りをしてきました。その最たる例が市営霊園で、管理料が40年以上無料だったんです。墓地を買ったら、100年使ったとしても1円も払わなくていい。普通は誰かが毎年払うものなのですが、タダなんです。

 年間1億円以上とっていなかったのですが、さらに問題なのは名簿を更新しなくていいことです。お金をとる時くらいしか、買った後の人にコンタクトすることはないわけです。年に1回徴収することによって、例えば請求書が届かないとか納めないといったことがあって、実は亡くなって受け継がれているとか、受け継ぐ人がいないので墓地回収とかするわけですが、そういうことを一切してこなかったので、40年前で止まった名簿もあるわけです。

 すると荒れていて無縁仏のような墓地でも、単に管理していないのか、使用者がいない状態なのか分からないところがいっぱいあるわけです。そういう墓地を放置しておきながら、一方で数十億円をかけて霊園造成事業をやっているわけです。

 墓はすごくお金かかるんですよ。これは行政の不思議なところで、だいたい行政が霊園を作るんです。民間だけでは供給が追い付かないというか、「墓地を作る」と言うと必ず周辺地域が反対運動をして、議員もからんでくるので、民間の事業者は墓地を作りたくてもなかなか作れないんです。とはいいながら、毎年亡くなっていく人がいて、墓地は必ず一定量必要なので、行政が墓地を作ることになるんです。

 いずれにしても無料の墓地はやめようということで、2012年4月から有料にしましたが、名簿をきれいにするのに1年もかかりました。本当はもっと早く有料化したかったのですが、名簿がボロボロの状態でしたから。特別部隊を作って、コールセンターみたいに一生懸命電話をかけて、「今、誰の墓地ですか」と1年間やって名簿をきれいにして、ようやく有料化です。

 当然、反発もありました。「タダだと思って契約したのに」と。それはそうですよね、その人たちの気持ちは分かるわけです。それはすみませんということで、一般の墓地だと年間1万円くらいのところ、年間4800円と安くしているのですが、それでも反発がありました。

 それだけで私は500〜1000票は確実に失っているわけです。誰もやりたくないんです。でもこれで毎年1億円入ってくるわけです。逆に言えば毎年1億円、墓地を持っていない人の税金が墓地を持っている人の穴埋めに使われていたということですよね。もちろん年間4800円とっても、全部それでまかなえるわけではありません。行政の市営霊園ですから。でも、半分くらい負担してもらうのは当たり前ですよね。

 ほかにもコミュニティセンターの会議室やサークル室の使用料も、全部タダでした。ありえないですよ、電気代相当くらいに100円でもいいからとらないとダメなんです。実費をとったら民間の会議室と同じなのでそんなことはしませんが、我々は2割とると決めました。8割は税金を入れます。

 これもものすごい反発があって、議会でも「市長はひどい」みたいにもめて、承認してもらうのにかなり時間がかかりました。でも、これで毎年2億円が入ってきます。今まではその2億円を、まったくコミュニティセンターを使わない人たちの税金でまかなっていたということです。

 市営住宅の駐車場料金も無料でした。市営住宅の人たちには所得が決して高くない人もいるのですが、「クルマを持てる人たちなのに何で駐車料金をタダにする理由があるんだ。毎年維持費払っているんでしょ。それで何で最低限の駐車料金を1円もとれないんですか」ということで、周りに比べて若干安い料金にしていますが、駐車料金はとることにしました。これだけで毎年1億円以上です。こういうものがいっぱいあるわけです。一応ルールを作って、こういう性格のものは2割負担、こういうものは5割負担、こういうものは8割負担と決めてやっています。

 そして、先送りしてきた料金の見直しです。会社で働いている人は社会保険ですが、自営業者や無職の人は国民健康保険に入ります。千葉市は今、国民健康保険の累積赤字が戦後最悪の水準に達しているんです。

 それには理由があって、千葉市は国民健康保険料が7年間上がっていなかったんです。この間、高齢化が進んでいるので、医療費が毎年すごい勢いで増えるわけですね。また、医療の高度化もあります。保険は一部税金を投入していますが、基本は納めた保険料で使った医療費を補てんするという原則ですよね。医療費が上がっているのに、7年間保険料を上げてきていないわけです。他の政令市は上げているのに、千葉市だけが上げていないので、当然収支バランスが崩れるんです。

 行政の下の人間は「上げないといけない」と毎回出すのですが、時の市長が「俺を選挙で落とす気か」みたいな感じで、ずっと上げてこなかったわけです。上げると、すごく怒られるんですよ。そういった方には当然、高齢者が多いわけです。高齢者は投票に行くので、保険料を上げるのは極めて危険な行為なんですね。ですから、7年間上がってこなかったんです。

 私は就任してすぐに上げて、平成24年度にもう1回上げました。いつも怒られてばかりですが、これは上げないと後の世代の人たちがまとめて払うわけですから絶対ダメなんですよ。こんなのがたくさんあります。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.