コラム
» 2012年11月29日 08時01分 公開

信金立てこもり事件に見る、過熱報道の危険性相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

[相場英雄,Business Media 誠]

 仮に、である。

 このネット中継を支店内の犯人が視聴していたらどうか。各種報道をチェックすると、県警側は長時間に渡り犯人を秘かに監視し、うたた寝を始めたことを確認してから行動を起こしたとされる。

 だが、これが犯人サイドの偽装だったとしたら。あるいは、人質を変装させた上で、捜査員たちの突入に備えていたら。

 日頃ミステリーを書くことを生業としているため、私の頭の中にはいくつかのシナリオが浮かび、ハラハラしながら動画中継を見つめていた。

 今回の事件は、野田内閣の総辞職程度しか犯人の要求が提示されなかった。人質を解放するかわりに、多額の身代金が要求されることもなかった。

 作家特有の妄想だが、第三者が県警の動きを確認するため、この犯人を代理に仕立て上げ、捜査態勢を確認するために起こさせた事件ではなかったのか……。私の頭には、無数の空想が浮かび続けた。

捜査手法を可視化して良いのか

 後日、一連の中継、そして県警捜査員の動きが中継されたことについて、日頃から小説の取材に応じてくれている現役捜査員に感想を求めた。真っ先に返ってきた言葉はこれだ。

 「そんなことされたら、助かる命も助からなくなる」――。

 現場の機微を知る叩き上げ捜査員は、唸るように告げた。

 今回の豊川での事件について、県警とカウンターパートである県警記者クラブとの間でどのようなやりとりがあったかは知り得ない。だが、今回の事件も、営利誘拐事件の発生時と同様に、報道協定を結ぶべきではなかったのか。報道協定とは、人質の生命を守るため、一定期間マスコミが報道を自粛する取り決めのことだ。

 2011年4月、私は当欄で「その“善意”が命を奪うかもしれない……SNSの隠れた凶暴性」との記事を寄せた(関連記事)。SNSの爆発的な利用者層の拡大とともに、かつて情報がほぼ完全な形で制御できた「報道協定」が意味をなさなくなっている、という主旨だ。

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