信金立てこもり事件に見る、過熱報道の危険性相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年11月29日 08時01分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 11月22日午後、愛知県豊川市の信用金庫で一般客や職員を人質に取った立てこもり事件が発生した。翌日未明、愛知県警の捜査員が支店に突入。人質を無事に解放し、容疑者の身柄を確保して事件は一件落着した。だが、この間、現場からの中継を見ていた私は違和感を抱いた。なぜこの事件が“報道協定”の扱いとならなかったかについてだ。ネット情報、あるいはネットメディアの台頭により、古い協定は人質を守ってくれないとの思いを強くした。

豊川の立てこもり事件

 事件についての詳報は他稿に譲るが、概要はこうだ。

 住所不定・無職の男性がサバイバルナイフで一般客を脅して人質に取り、信金の支店職員も巻き込んで立てこもった。

 通信社や新聞、テレビ局の速報によって私は事件を知った。夕方となり、公共放送や民放各社がこぞって現場からの中継に踏み切った。もちろん、私もテレビの前で成り行きを注視した。

 中継画像の大半は、現場となった信金支店から数百メートル離れた住宅街の一角、あるいは支店を見下ろせるマンションの通路だった。中継では、県警の特殊犯捜査係の交渉役が何度か支店に近づき、犯人の要求に応じて飲食物などを提供する場面が映った。

 ここまではよくある光景で、特段の違和感はなかった。夕方から夜間帯となり、各局のニュース番組は事件が行き詰まり、解決までにさらに時間を要するとの見通しを伝え、プログラムを終えた。

 私が仰天したのは、深夜になってからだ。

 各種のインターネットサービスで、事件現場の様子が全て中継されていたことに気付いてからだ。画面では、完全防護態勢で支店に突入準備を始めた県警特殊犯捜査係の捜査員たちが丸々映った。

 以降、ガスバーナーで窓を破壊、次々に支店に入る捜査員の一挙手一投足までがリアルタイム配信され、同時に視聴者からコメントが寄せられていた。

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