振り返れば、日本を変えたヒット商品はみんな丸かった。
本田技研の屋台骨を作った「スーパーカブ」。移動にも運搬にもぴったりの国民車は、堅牢でシンプルで安全で低燃費だった。片手運転ができるので、おかもち片手に出前もOK。シーソーペダルは雪駄(せった)でも変則ができると言われた。敗戦後の移動手段や仕事ニーズにハマっていた。技術、製造、使い勝手、価格が破綻なくつながっていたので、当時のオートバイ年間市場規模2万台のところを、月産3万台体制でヒットした。
小さくて精密。SONYスピリッツの申し子、「ウォークマン」も丸かった。カセットテープのケースサイズという着想、小型化への執念、ネーミング、カセットというソフトウエアの便利さ……「音楽をいつも聴きたい」というライフスタイルが丸くつながっていた。
海の向こうのヒット商品も同じである。スティーブ・ジョブズが復帰して死去するまでのApple製品も、製品の持つ独特のアール(曲線)のように丸かった。シンプルなデザイン、説明不要のユーザーインタフェース、ハードとソフト一体の開発、Appleストアでの購買体験、デザインのプロフェッショナルというコアユーザー層、すべてを丸く包むブランド力。
ヒット商品は丸い円を描く。だが丸くないものもある。
たとえばコンビニエンスストアはまだつながっていない。弁当などの廃棄の多さ、加工食品による食生活の乱れ、新製品のサイクルが速くて業者泣かせ、省エネ時代に明るい店舗、多頻度配送による重労働環境。
そこでコンビニ各社は「丸く」を求めている。生鮮食品の扱いを増やし、新製品よりPB(プライベートブランド)を増やした。LED照明店舗も増え、デリバリー回数も抑制する。過疎地にコンビニという新しい業態もある。便利の代償として様々なほころびが出るが、そのほころびをつなごうとして業態を進化させている。
100円ショップも丸くない。こんなのが100円で! という恩恵の一方で、使いにくい商品や、安かろう悪かろうというものも多い。そうなれば素材も製造も無駄、ゴミも増える。低賃金労働での製造も理にかなっていない。だが今は消費者の方が賢い。商品を吟味して買い、100円ショッピングを趣味かレジャーのように考える。つながらないビジネスだが、消費者のおかげでつながりを保てている。
だが同じ消費者はエコではないペットボトルも何億本も飲む。事故でコントロール不能になる原発も、「現実として」受け容れる。丸くなくても仕方ないのだろうか?
あなたの仕事は「丸い」だろうか?
地球環境にいいか、社会の役に立つか、安過ぎず高過ぎないか、利益をちゃんと分配しているか、働きすぎで自分の生活がなくなってないか、家族が崩壊していないか、お客さんの満足であなたが満足しているか? 丸くつながっているだろうか?
ぼくの円は何カ所も欠けている。金の流れが少ない、努力も足りない、アイデアも不足、家族に迷惑をかけている。たぶんあなたの円もポツポツ欠けているだろう。だがそれでいいのだ。欠けているところを知り、努力して、考えて、つないでゆくこと。それがビジネスであり、自分の仕事であり、誠実に生きることだと思う。
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