慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。
著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)など。
中村伊知哉氏のWebサイト:http://www.ichiya.org/jpn/、Twitterアカウント:@ichiyanakamura
有名人の来店を店員がツイートし、その店のサイトが炎上。内定学生がツイートで暴言を吐き、その企業のサイトが炎上。テレビ局への批判がそのスポンサー批判にまで引火。職員のやらせメールがソーシャルサービスで発覚し問題化。
インターネット上で特定の企業や従業員が一斉に批判を浴びる「炎上」が相次いでいる。パターンもさまざまだ。会社がアナウンスしたことが批判されるだけでなく、職員が個人でつぶやいたことが会社に被害を与えたり、関係者は何にもしてないのにとばっちりで炎上してしまったり。
ソーシャルメディアが浸透し、スマートフォンなどデバイスも普及したこの1〜2年でネットのリスクも飛躍的に高まった。ネット炎上は、2011年には前年度の倍以上に増加したという。ソーシャルにより一瞬でメッセージが拡散するようになる。スマホで誰もが写真で簡単にソーシャル参加できるようになる。この傾向はこれから拍車が掛かるだろう。
根拠のないネット上のつぶやきが一瞬で拡散して、大問題に発展することもある。企業にとっては、その存在すら脅かされる死活問題となり得る。だからといって、新たな法制度を持ち込むのは、表現の自由を脅かす。ネット上の発言を自動監視するなど、技術的に対応することも考えられるが、それだけでは頼りにならない。結局、企業や個人が自ら、こうした問題に対応できる体力を養う必要がある。
女子高生が10年前にはもう親指でケータイメールを打っていたように、日本は老いも若きも情報を発信する「ネットユーザー力」の高い国。世界一といってもよい。世界のブログで使われている言語は日本語が最も多い、という調査結果もある。
だから、こうした問題も発生しがち。日本は「炎上先進国」。日本のネットユーザーがマイナス面でも世界をリードしている。急激なメディアの変化と普及に社会が追い付いていないのだ。スマホやソーシャルの普及により、これまで以上に多くの国民がネット社会に参加するようになり、それで新たなリスクが生じてきている。
他国に対処法や事例を求めても答えはない。日本は、私たち自身が方法を探り答えを見つけなければならない。そのノウハウを海外に教えてあげる、くらいの対応が求められている。
ソーシャルサービスは社会経済に大きな恩恵をもたらす。震災後も瞬時にさまざまなソーシャルサービスが立ち上がり、被災地と全国の情報共有に活躍した。人々のきずなを強め、コミュニケーションを活性化させている。企業のビジネスにも不可欠なツールに成長している。
しかし、デジタル技術を不安視する見方にも根強いものがある。4年前、青少年のケータイ所持をめぐる問題では、ケータイを規制せよという政治的動きが高まった。結局、法律まで策定されてしまった。当時、私は規制でフタをするのは逆効果であり、使わせるべきだという論陣を張り、さまざまな運動を束ねるコンソーシアムとして「安心ネットづくり促進協議会」を立ち上げた。これでようやく事態は収まってきたが、民間が努力を怠ると、また政治が入ってくる可能性も残る。
本件も同様だろう。炎上などの新しいリスクに、民間が情報を共有して、対策を練っていくことが大切。民間がきちんと対策を講じておかないと、政治や規制が入ってくるという危機意識を持っておく必要がある。そして、そのためにも政治や関係省庁とも連絡を取りながら、努力していくことが求められる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング