チャベス大統領と米国の「がん兵器」伊吹太歩の世界の歩き方(2/3 ページ)

» 2013年03月14日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

遺体を保存するエンバーミングとは何か?

 そもそもエンバーミングとは、遺体の長期保存が可能になる科学的な腐敗処理技術で、破損した遺体の修復なども行われる。実際の処置では、血管に消毒や防腐のための液体を流し込み、全身に浸透させる。腹腔内の体液や血液を吸い出し、腹腔用の薬液を注入、遺体を安全な状態にする。また液体は赤く、遺体は血の通ったような色を取り戻す。

 日本と違って遺体を土葬することが多い欧米では、エンバーミングが当たり前のように行われている。さらに世界を見渡せば、いくつかの国で、エンバーミング措置によって何十年も英雄的指導者の遺体を保存・展示している。ロシアのレーニンや中国の毛沢東、ベトナムのホーチミン、北朝鮮の金日成や金正日などの遺体が、生前の姿のまま永久保存されている。

 長期間に渡って遺体を保存するエンバーミングは、通常の措置だけでは不十分だ。遺体は腐敗し、乾燥する。腐敗はエンバーミング用の液体で阻止できるが、乾燥は厄介だ。そこで周囲の湿度を比較的高めに維持するのだが、そうすると今度はカビが生えやすくなる。例えば1924年に死亡し、それ以降、生前の姿のまま保存・展示されているレーニンの遺体は、年に一度、特別な液体に浸される。さらに2週間に1度は、顔と手を同様の液体で湿らせているという。そうすることで、腐敗や乾燥を阻止し、いつまでも保存を可能にしている。

 エンバーミングは最近、日本でもよく耳にするようになった。先日、筆者の親戚が死亡した際に、葬儀業者の勧めでエンバーミング措置を施した。社葬をするために日程を少し先延ばしする必要があったためだ。施行時間は3時間ほどで、費用は15万円ほど。カリスマ指導者とは違い、一般の人なら数日から10日ほど遺体を腐敗させることなく保存できればいいので基本的な措置を施すだけで済む。日本では日本遺体衛生保全協会が自主基準として、遺体の保存期間は50日以内を定めている。

 ともかく英雄としてエンバーミングで永久保存されることになったチャベスだが、遺体の写真を見る限り、その顔はがんで衰弱して死んだような顔ではなかった。ふっくらとしており、エンバーミングの際にあわせて修復措置が行われた可能性もある。

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