地元自治体にとって「大鰐線が廃止されては困る」事情は2つある。1つは、沿線に高校や大学があり、通学路線として重要だからである。起点の中央弘前駅付近には東北女子短期大学と弘前大学の医学部、弘高下駅付近に弘前高校、弘前学院前駅付近に弘前学院大学と弘前大学本部、聖愛中高前駅には弘前実業高校と弘前学院聖愛高校。少し離れて、義塾高校前駅付近に東奥義塾高校がある。丁寧に学校名を冠した駅名になっている。
最後に紹介した東奥義塾高校は、弘前藩の藩校を出自とする伝統がある。当地への移転は1987年。大鰐線の存在あっての移転であり、移転に合わせて駅が設置された。もっとも、この付近は奥羽本線の石川駅も近い。もともと良い立地だったとも言える。
他の学校の立地についても「大鰐線があるから」という理由があっただろう。ただし、学生たちがどれほど大鰐線に乗っているか。報道の中には「ふだんは自転車通学で、雨の日に乗っていた」という高校生の談話があった。
もう1つの事情は、いままで自治体が大鰐線を支援し、援助してきた費用が廃止によって無駄になってしまうから。例えば、大鰐線が奥羽本線をまたぐ鉄橋について、2007年に架け替え工事が行われた。この費用、約5000万円のうち、9割は地元自治体が負担している。それからたった6年しか経っていない。また、2002年に開業した石川プール前駅は弘前市が費用を全額負担している。石川プールはごみ処理場から発生する熱を利用する温水プール施設だ。ごみ処理工場の設置は1992年。プールの開業は2002年。これも大鰐線の沿線という立地を意識した施設である。
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