ワークショップコレクションで、社会貢献だからこその本気を見る中村伊知哉のもういっぺんイってみな!

» 2014年01月15日 08時00分 公開
[中村伊知哉,Business Media 誠]

中村伊知哉(なかむら・いちや)氏のプロフィール:

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)など。

中村伊知哉氏のWebサイト:http://www.ichiya.org/jpn/、Twitterアカウント:@ichiyanakamura


※編集部注:本記事は2014年1月10日に@IT「中村伊知哉のもういっぺんイってみな!」で掲載された記事を転載したものです。

 「ワークショップコレクション9」。2013年3月9〜10日の2日間、100以上のものコンテンツ創作やモノづくり、実験を体験できる「ワークショップコレクション9」が慶應義塾大学日吉キャンパスで開催された。2日間の参加者数はおよそ10万人。第1回の参加者は500人だったが、毎年倍々に成長し、ついに第9回にして10万人到達だ。もはや世界最大規模の子ども創作イベントと言ってよいだろう。

ワークショップコレクション9のWebサイト。会場風景

 ワークショップは皆「創作」系のものだ。「作ってみよう」「表してみよう」と、ねんど細工、毛玉工作、空間演出、音楽作り、芝居で自分表現をする。

 もちろん、デジタル系の活動も豊富だ。アニメ作り、ゲーム作り、ロボット作り……。ソーシャルゲームビジネスでは、ライバル関係にあるGREEとDeNAが仲よく並んでブースを出していたり、私が事務局長を務めるソーシャルゲーム協会が啓発活動で初参加していたりするのもトピックであった。

 その他、ワークショップ全てを紹介したいところだが、ひとまず、スペシャル枠で提供してもらったものを挙げておこう。

よしもとキッズ CANVAS×吉本興業 PaPaPark

「有名パパ芸人といっしょに『でんとうを感じる』ワークショップを体験しよう!」

 われらが「CANVAS」と吉本興業「PaPaPark!」が展開する「『おもしろかし子』プロジェクト」のプロデュースによるスペシャルワークショップだ。人気パパ芸人と一緒に子どもたちが日本の「でんとう」を感じる3種のワークショップツアーに出かける。

tap*rapへんしん コマドリアニメーション 季里

「大人気のデジタルえほんアプリにちなんだアニメーションをつくろう!」

 こちらも我らが「デジタルえほん社」とDNPの企画だ。2012年度グッドデザイン賞&キッズデザイン賞をダブル受賞した、デジタルえほん「tap*rapへんしん」を楽しむアニメ制作ワークショップである。

アニメーション映画 美術監督 山本二三

「巨匠といっしょにチャレンジ!あなたはどんな雲をえがく?」

 「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」「時をかける少女」などの美術監督として背景画を手掛けた山本二三さんによるワークショップだ。う〜ん、ぜいたく。

えほん作家 きむらゆういち

「あなたのステキなアイデアで『しかけえほん』をつくろう!」

 「あらしのよるに」「あかちゃんのあそびえほん」など500冊以上の有名絵本を生み出した、絵本作家きむらゆういちさんによるワークショップ。私が受けたいぐらいだ。

 当日は創作ワークショップを表彰するアワードも行われた。審査員は、日本テレビのプロデューサーである土屋敏男さん、面白法人カヤックのCEOである柳沢大輔さん、ビジュアルプロデューサーとして活動する季里さん、CANVASの石戸理事長と、私だ。

 最優秀賞に輝いたのは、グロ☆スタ/協力JAXA「宇宙服で英語の夢を乗せた傘袋ロケットをつくろう!」だ。

 JAXA協力の下、英語で宇宙について学ぶとともに、英語で夢を書き、夢を貼った傘袋でロケットを制作して、飛ばすことのできるイベントだ。

 英語を目的として学ぶのではなく、英語を通じて子どもの興味のあることを学んでほしいというのがコンセプトの1つにある。

 傘袋でロケットを作る。飛ばす。デジタルのアプリで学ぶ。宇宙服を着る。アナログとデジタルをうまくミックスしたワークショップ――。宇宙ブームだしねぇ、ハマるよね。 私は、次の2点を推した。コメントをメモしておく。

TBSテレビ&ラジオ「アナウンサーになってニュースを伝えてみよう!」(優秀賞)

 教室が特設スタジオになった。アナウンサーになりきってテレビカメラに向かってニュースを読んでもらう、というものだ。アナウンサーの気分を味わうだけでなく、テレビの番組がどんな具合に作られているのかも体感できる。

 子どもが座るアナウンス席には、テレビでおなじみであるプロのアナウンサーも座り、一緒に番組を進行する。カメラ、照明、画面をスイッチングするディレクター、「カンペ」を出すフロアディレクターなど、皆プロフェッショナルが脇を固めるのだ。

 ぜいたく〜!!

 テレビ局が、その本業を、本職の人たちによって子どもたちに伝える。これぞ社会貢献のモデルだと思う。

 アナウンサーだけじゃなくて、カメラや照明やディレクターの仕事なども体験できるような常設のスタジオが欲しいなぁ、なんて、もっとぜいたくなことを考えてしまった。

サントリー美術館「日本美術を体験・体感・発見!おもしろびじゅつ教室」(来場者投票賞)

江戸の焼き物?「鍋島」?

 子どもから見ると、古くさくて難しそうな題材。ところが、間近で見てみるとその色づかいもデザインも、圧倒的にキレイでカッコいい。

 それを基に、タブレットで自分の皿をポップにデザインする。そして大型スクリーンに展示して、みんなで鑑賞する。さらに、プリントアウトして持ち帰り。

 古美術とポップ。参加と鑑賞。個人とみんな。アナログとデジタル。

 抜群です。恐れ入りました。

 私は昨年、サントリー美術館を訪れ、この参加・体験型展示に心を揺さぶられたのだが、そのしつらえをワークショップとして教室に移設してくれたことに加え、プリントアウト土産という工夫も加えられたご努力に敬意を表します。

 どうだろう。

 お祭り騒ぎで高揚感にあふれ、創造的でクオリティが高く、愛情にあふれる、そんなイベントの雰囲気が少しでも伝わっただろうか。いやあ、ムリだろうな。たとえぼくに100倍の文章力があったとしても。

 ぜひ次回、足をお運びいただき、現場をご覧あれ。(中村伊知哉,慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

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