嘲笑から知恵は生まれない教育に生きる人間から、社会を創る皆さんへ(1/2 ページ)

» 2014年06月09日 08時00分 公開
[寺西隆行,Business Media 誠]
誠ブログ

 Facebookを見ていたら、友人が「【悲報】タブレット導入した佐賀市「立ち上げ6分、不具合15分、授業は30分以下」バカすぎワロタwww」という記事をシェアしていました。

 引用された佐賀新聞の記事にある、若楠小学校の内田明教諭と九州ICT教育支援協議会の桑崎剛会長は、ともに僕の友人です。あまりにも事実の温度感と違うので、こんな風にネタにされるんだと、思わず笑ってしまったほどです。

 記事のコメントには、佐賀県全高校へのタブレット配布への嘲笑や、武雄市樋渡市長の写真(武雄市もタブレット配布で有名)、佐賀県教委と富士通との癒着への懐疑――など、某掲示板にありがちな流れが続いています。

 僕はICT教育関連についていろいろ研究して、樋渡市長とも交流があり、佐賀県教育委員会へのヒアリングへも行ったことがあります。僕からすれば、

  • 佐賀県の高校や武雄市でのタブレット配布、若楠小のICT教育はほとんど同期せず、独立した動きで、それぞれの立場でできることをやっているだけ
  • 高校は県教委の管轄、小中学校は市教委の管轄なので、上記は佐賀県教委、武雄市教委、佐賀市教委の管轄とはそもそも異なる
  • 若楠小の内田教諭は、以前から佐賀県全高校の拙速なICT導入にかなり警鐘を鳴らしている

 つまり、こういうことです。それくらい全く違う人たちの個々の活動が「佐賀」というくくりだけで一緒くたにされて、コメントされているのです。僕は、内田教諭とはさまざまな相談をし合う関係なので、この記事のことを連絡したらFacebookでこんなコメントをくれました。

ははは、ウケる。立ち上げに6分、不具合15分は、当然導入当初の話です。4年も前の、超初期型の端末だっちゅうの。
そのまま4年も経って、改善してますわ。ものすごい苦労して。暗に県教委に警鐘を鳴らしてるんです。
(Facebookでの内田教諭のコメント)

 九州ICT教育支援協議会主催の勉強会における内田教諭の発言が「4年前」の状況であることをすっぽり抜かした佐賀新聞の記事にも思うところはあります。その一方で、第三者がネタにしやすい問題の部分だけ切って取ってきて嘲笑の流れを加速させても、実態とはどんどん離れて話題化されてしまいます。ネットによくある典型的な例です。

 この記事は最初、Z会ブログで書いたものですが、それを読んだ人がTwitterで意見をくれました。そのとおりだと、僕も思います。

 教育うんぬんの視点からすれば、お決まりの「好ましくない」というコメントになるのかもしれませんが、ネットが発展している社会においてこういう掲示板的な記事が存在するのも仕方ないと思います。「好ましくない」とは思いつつも「見たい」と思う人は実際には多いでしょう。

 一方で、閲覧している側の見方として「嘲笑や揶揄的なコメントを真に受けるのはちょっとね」としたほうがよいことは、先の例からも明らかです。きっと、どんどん実態からズレていることが多いと思うからです。

 とある事象だけ見て、問題だと騒ぐのは簡単です。知見が深まるのは、実態を見に行こうとする姿勢があるとき。知恵がつくのは、問題解決に取り組むとき。

 内田教諭がこの問題に自ら4年をかけて取り組み、知恵や知見、経験を蓄え、今では素晴らしいICT教育環境を若楠小の子どもたちに提供していることを、僕はよく知っています。だからこそ、2000年代中盤ごろから、ネットリテラシーの啓蒙活動に取り組んできた九州ICT教育支援協議会に講師として呼ばれてもいるのでしょう(参照記事:「一人一台 効果と課題」教育ICTデザイナー 田中康平のブログ)。

 加えて、内田教諭も桑崎氏も、「ICTで何でも解決する!」といったスタンスを決して取りません。ICTの便利なところや導入するにあたり、問題となるところをしっかり見据え、「便利>問題」となるように努力する人たちです。

だから……、立ち上げに6分、不具合15分は、導入当初の話です。しかも4年前、超初期の端末。今でもそうなわけないです。めっちゃめちゃ苦労して、あらゆるアイデアを駆使して、改善したんです。暗に県教委に警鐘を鳴らしてるだけですよ。佐賀市の皆さん、若楠の皆さん、ご安心ください。素直な子がたくさんいて、職員もみんな仲が良く協力しているいい学校です。佐賀市教委の担当係も、一生懸命がんばっておられます。ICTは「魔法の杖」ではありませんが、未来を生き抜くための強力な「道具」であることは、間違いないと考えています。
(内田教諭のコメント)

 内田教諭と電話でやり取りして分かったことですが、この佐賀新聞の記事が出た後、若楠小には「大丈夫なのか!」という電話がかなりかかってきたそうです。そして、「普段の学校活動の時間がそれに取られてしまった」とも。若楠小の関係者なら、不安な気持ちからこのような電話をするのは分かりますが、そうではなく、例えば記事を見てヤジ馬根性から電話をかけるのであれば、問題解決に取り組む人の時間をそれで奪ってしまうことになります。

 問題を指摘するだけの人と、解決に取り組む人とは雲泥の差だということがよく分かる事例だと思います。

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