人工知能の本質は? 「近さ」の判断が不得意今どきの人工知能(2/4 ページ)

» 2014年11月12日 07時00分 公開
[松尾豊, 塩野誠 ,Business Media 誠]

人工知能の本質は「近似」や「共通要素」の処理にある

塩野: なるほど。人工知能の本質は「近似」や「共通要素」の処理にあるということですね。そういえば、仕事ができる人は、60%程度の完成度でも走り出し、修正を繰り返しながらゴールに到達します。逆にもっといろいろ調べなければと考えてしまい、時間が過ぎてタイミングを逸する人もいる。事例数に左右される分析はこれと共通する部分がありそうです。

(画像と本文は関係ありません)

松尾: それは言えますね。学習が早い人ほど一見すると違う事象を同じと見て、そこに共通する要因を見つけ出すことができます。コンピュータの場合、ここがまだ弱い部分で、どういう風に近いのかということ自体を、コンピュータが学習しなければなりません。ここは非常に難しいところです。

塩野: コンピュータは、このパターンとこのパターンは近いと認識する。この場合、「近さ」をコンピュータ自身では、設定できないということですか。例えば、コンピュータは数式で考えるとして、10と15と100があったとしたら、10と15は近いので一緒にして100とは区別して、グループを2つ作るようなやり方をすると思います。では10、50、100なら、50はどっちに入れるか。こんな感じですか?

松尾: そうした選択をする場合に、何をやりたいかに応じて、近さの基準を変えているという話です。人間は自在に変えていますよね。目的に応じて近さの基準を変え、それによってある事象をどっちに振り分けるかを決めているのが、人間の脳のすごいところです。極端な言い方をしてしまうと、脳がやっているのは「ユークリッド空間から位相空間への写像」と言いますか……。

塩野: えっ? 何ですかそれは?

松尾: 簡単に言ってしまうと、ある空間の中から「近さ」を見いだすということです。結局のところ、人間の脳にとっては、近いかどうかしか重要ではありません。例えば、10円と50円、50円と100円の絶対的な距離などほとんど意味はなく、それよりも50円と100円が近いのかどうかが大事です。近いか遠いかには、いろいろな基準がありますが、自分の目的に照らした基準においての近さにしか人間は興味がないわけです。

 別の例で言いますと、画像認識で目か鼻か、口か顔かを認識するとき、画像Aと画像Bを比べると、絶対的な距離空間はまったく違っています。しかし、人間にとっては2つの画像の「目」は「近い」と考えられる。塩野さんの写真を撮るとして、まばゆい太陽の下とこの部屋の中では、輝度が全然違いますよね。画像として、データとしてはまったく違いますが、2枚の写真は塩野さんが写っているという視点では近似、非常に近いわけです。

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