一方、海の向こうでも違った形でプロレスとMMAが融合しようとしている。米国最大のプロレス団体「WWE」で王者にもなった元人気プロレスラーのCMパンクが12月上旬、世界最大のMMAイベント「UFC」を運営する米Zuffaと選手契約を結んだ。このニュースは多くのMMA関係者に驚きをもって受け止められている。
WWEのスーパースターからUFCファイターへの転身は前例がある。2008年にUFCデビューを果たし、UFC世界ヘビー級王者にまで上り詰めたブロック・レスナー(現在はWWEに復帰)だ。だが、レスナーはWWE入団前、アマレスでNCAA(全米大学体育協会)の運営する大会を制覇するなど、全米でもトップクラスの戦績を誇って名を馳せた経歴を持っており、MMAファイターとしての下地はあった。
対照的にCMパンクは基本的にブックの世界だけでのし上がったファイターであり、UFCで戦うためのバックグラウンドは皆無に等しい。ヒーロン&へナーのグレイシー兄弟から直伝でグレイシー柔術を3年間ほど習い、黒帯も持っているというが、「オクタゴン」と呼ばれるケージ(金網)の中での実戦でどこまでその真価を発揮できるかは未知数だ。
UFCのファイターたちからは「WWEは格闘技じゃない。おかしいだろう」「とんでもないジョークだ」などと多くの拒否反応も出ている。それでもUFCフェザー級で活躍する人気選手の“カリフォルニア・キッド”ことユライア・フェイバーが「僕は彼のファンだ」とエールを送るように、CMパンクの電撃参戦を歓迎する声も少なくはない。ちなみにユライアは米メディア「MMAjunkie」の取材に、こうも述べている。
「UFCの戦いは多くの部分をメンタルが占める。だから彼が本当に熱意を持ってここに来るならば、どうして批判されなければいけないのか。まずは、どういう形になるのか見てみよう。もしかしてチャンピオンになるかもしれないじゃないか」
実を言えば、ZuffaとUFCで代表を務めるダナ・ホワイト氏は、水面下でWWEのCEO兼代表取締役会長のビンス・マクマホン氏と友好関係を築いている。WWEとは対極に位置するはずのUFCだが、スポーツとエンターテイメントの違いはあれども両者は同じショービジネスの世界でトップクラスにいる団体同士。いがみ合わずにシェイクハンドしたほうが、これからの時代を生き抜く上でははるかに有益だろう。
その観点からも今回のCMパンクの“移籍”が成功すれば、MMAとプロレスが共存するための新たなスタイルを構築できるかもしれない。元人気レスラーの活躍によってUFCが活性化されるだけでなく、もともと所属していたWWEも世間に「普段はブックの試合でも、レスラーはリアルファイトでも強いんだ」と印象付けられ、ファン層の拡大が見込める公算が強いからだ。
奇しくも日米で同時に起きたMMAとプロレスの急接近。果たしてショービジネス界の新時代の幕開けにつながるのか。注目していきたい。
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