中小規模の小売店を狙え――ドコモ&カシオ合弁会社の狙い:神尾寿の時事日想
ドコモとカシオ計算機が合弁会社「CXDネクスト」を設立する。背景にあるのは、大手チェーンから中小規模の小売店に普及フェーズが移りつつある電子マネーだ。新会社設立の動きには、iDとトルカの新市場創出と面展開のために布石を打ちたいドコモの思惑が見える。
7月3日、NTTドコモとカシオ計算機が「iD」を中心としたクレジットサービスによる電子決済サービスと、店舗の売上集計や分析などの店舗支援サービスを提供する合弁会社「CXDネクスト」を7月9日に設立すると発表した(7月3日の記事参照)。新会社「CXDネクスト」は、資本金・資本準備金の合計は15億円で、カシオが60%、ドコモが40%を出資する形になる。
CXDネクストではカシオが販売するネット対応電子レジ「TE-2500/TK-2500」向けに、iDやトルカを活用した電子決済ソリューションを提供する予定だ。このシステムは従来のPOSレジよりも安価かつ運用が容易であり、中小規模店舗にiD/トルカを普及させるのが狙いだ。
iDやQUICPay、Edy、Suica/PASMOなどのFeliCa決済の加盟店は、2007年に入ってから急速に増加している。共用リーダー/ライターの展開本格化も追い風になり、コンビニやスーパーをはじめとする大手ナショナルチェーンでは何らかのFeliCa決済が使えるところがほとんどだ。全国的に“FeliCa決済が使える”ことは特別なことではなくなってきている。
しかし、その一方で、国内小売店約300万の3分の2を占める中小規模店舗では、POSシステムすら整備されていないケースも多く、FeliCa決済への対応が大手ナショナルチェーンほど進んでいないのが現実だ。FeliCa決済や電子クーポン、ポイントプログラムへの対応が流通小売業で"必須のもの"になる中で、中小規模店舗向けシステムの潜在市場は大きい。
未開拓分野も含めて「面の広がり」が顕著なiD
iDを始めとするFeliCa決済は、これまでクレジットカードが使われてこなかった小規模・少額決済市場への展開が期待されているが、今のところ大手ナショナルチェーン中心の加盟店拡大になっている。こうした大手の加盟店の中には、すでにサインレスのクレジットカード決済に対応していた店舗もあり、そこではFeliCa決済対応のメリットが打ち出しにくい。
しかし今回、ドコモとカシオ計算機が中小規模店舗向けのiD普及に本腰をいれることで、小規模・少額決済市場でのFeliCa活用が大きく進み、加盟店の“裾野の広がり”が期待できる。また中小店舗向けに、FeliCaやおサイフケータイを活用したクーポンやポイント、送客のサービスやビジネスの登場など、関連市場が拡大するシナリオは十分に考えられる。FeliCaビジネス全体の活性化という視点でも、今回のドコモとカシオの取り組みは評価できる。
iDを推進するドコモと三井住友カードは、これまでも自動販売機やタクシー、ハンディターミナルなど、未開拓な少額決済市場にiDを広げる取り組みを積極的に行ってきた。iDは、プリペイド型電子マネーのEdyと並んで、FeliCa決済加盟店の「面の広がり」に貢献している。引き続き、今後の動向に注目していきたい。
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