“エネルギーの多様化”は不可欠――家庭用発電分野に進出するホンダ:神尾寿の時事日想:
最近の自動車メーカーにとって重要な話題が環境への取り組み強化だ。ホンダは自動車のCO2削減や省燃費だけでなく、太陽電池や小型コージェネレーションユニットなど、家庭用発電機器にも力を入れる。
7月18日、本田技研工業の福井威夫社長が年央社長会見を行った。今回の会見で同社は、2005年春から3カ年の中期計画の現況について説明。「海外の成長基盤の強化」、「日本の源流強化」、「環境への取り組み強化」を、将来に向けた取り組みの大きな3つの柱とした(7月19日の記事参照)。
これらの中で特に注目なのは、やはり「環境への取り組み強化」だろう。CO2削減と省燃費・環境技術の需要拡大は、自動車メーカーにとって重要なテーマになっている。世界的な原油高が収まる気配を見せないこともあり、低燃費技術や次世代エネルギー活用における技術革新の成否は、自動車メーカーにとって死活問題だ。ホンダの福井社長は会見で、「(ホンダは)環境トップランナーとして時代に先駆けていく」と強調した。
クルマ側の技術革新とエネルギー創出の二本立て
環境分野の取り組みで、最初にあげられたのは「クルマ」のプロダクトそのものに対する技術革新の取り組みだ。ここでホンダは、(1)次世代ディーゼルエンジン、(2)燃費向上・コストダウンした新型ハイブリッドシステムを主要な2本柱のテクノロジーとし、昨今話題になっているバイオエタノール車については、(3)ブラジルで販売開始した「FFV(フレキシブル・フューエル・ビークル)」を挙げ、この分野にも着手しているとアピールした。
また、今回の発表で興味深かったのが、「エネルギー創出領域」への事業展開だ。ここでホンダは、今後を睨んだ重要な製品として、「家庭用小型コージェネレーションユニット」と「家庭用太陽電池」を紹介した。
「家庭用小型コージェネレーションユニット」はガスエンジンで発電し、同時に廃熱を給湯・暖房に利用するもので、総合エネルギー効率は85.5%に達する。ホンダ製の家庭用小型コージェネレーションユニットは「ECOWILL」ブランドで2003年から発売されており、すでに各ガス会社を通じて5万台が販売されている。
家庭用太陽電池は今年6月から関東地域で販売開始しており、今年秋にはホンダソルテックで量産を開始。販売店網を整備して、全国展開を行う予定だ。この分野はこれまで、シャープや松下電工、京セラなど家電メーカーの領域であったが、そこに自動車メーカーであるホンダが進出することになる。
プラグインハイブリッド、EVに布石
ホンダがここにきて、エネルギー創出分野に力を入れていること、特に国内では「家庭での発電」に注力する背景には、長引く原油高の影響で消費者の“減・ガソリン”“脱・ガソリン”の意識が高まることへの布石がある。
日本では、欧米を始めとする海外市場に比べて、1回あたりの乗車時間・乗車距離が短い。航続距離に対するニーズが低く、都市部のユーザーを中心に“ちょい乗り”と呼ばれる短距離利用が多いため、航続距離が短いという電気自動車(EV)の弱点がカバーしやすいという背景があるのだ。
例えばホンダ以外では、トヨタ自動車が近日中に発表する新型のプリウスでは、家庭で充電できる「プラグイン・ハイブリッドシステム」が導入されることが確実視されている。従来の走行時のエネルギー回生だけでなく、家庭電源からの充電により、モーターだけで走るEVモードの活用範囲を広げるのが狙いだ。秋に登場するホンダの新型ハイブリッドシステムの詳細は不分明だが、今後のハイブリッドシステムのトレンドに“プラグイン機構”と“EVモードの利用拡大”が加わる可能性は高い。
また、三菱自動車は2010年までに次世代電気自動車「MiEV(ミーブ、Mitsubishi innovative Electric Vehicle)」を市販すると表明している(5月11日の記事参照)。
将来、プラグイン・ハイブリッドやEVが普及すれば、クルマは“家庭で充電する”スタイルになる。そうなれば家庭における使用エネルギーの“電気シフト”は一気に進むだろう。自動車メーカーにとって家庭用発電機器の事業は、本業である自動車事業との連携も視野に入れた重要な布石である。
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