ビジネス客を確保せよ――過熱するJAL VS. ANAの高級化競争 :神尾寿の時事日想:
ANAは国内線の上級席をリニューアル、さらに300万円支払えば1年間上級席に乗り放題という「プレミアムパス」を発売する。利用頻度・顧客単価ともに高いビジネス客と、富裕な旅行客の需要をいかに取り込むか? 航空会社の狙いはそこにある。
10月24日、全日本空輸(ANA)が国内線の上級席「スーパーシートプレミアム」をリニューアル。新たに「プレミアムクラス」を導入すると発表した(参照リンク)。プレミアムクラスの導入は2008年4月1日から。提供機材は、現行のスーパーシートプレミアムを設置しているボーイング747型、同777型、同767型に加え、ボーイング737-700型および737-800型機にも設定される。ANAによると、2009年度末にはANAグループが運行するジェット機材の約7割にプレミアムクラスが用意されるという。
上級席利用者に、空港ラウンジ利用を“お試し”提供
今回のプレミアムクラスは、「シートピッチの拡大」、「全便・全時間帯での機内食提供」、「航空会社ラウンジの提供」の3つを柱に、全国主要空港での専用チェックインカウンターおよび専用保安検査場の利用、手荷物の優先受け渡しサービスなどが予定されている。
シートピッチは現行スーパーシートプレミアムの30インチから50インチに大幅拡大。現行機材ではシート配列もゆったりとしたものに見直され、プレミアムクラスから上級席が設定されるボーイング737型機はPC用電源も用意される模様だ。
航空会社ラウンジの提供も今回の目玉である。従来、国内線の航空会社ラウンジは、エリート会員と呼ばれる年間利用実績の多い上級顧客専用であったが、今回の改訂で、プレミアムクラス利用ならば“一見さん”でも入室可能になる。
ターゲットは「ビジネス客」と「富裕層」
ANAのプレミアムクラス導入が、JALが今年12月1日から投入する「国内線ファーストクラス」の対抗策であることは間違いない。
以前のコラムでも書いたが、ANAは2004年の“プレミアムシート”競争において、「クラスJ」で上級席の大衆化を図ったJALとは逆に、高級化路線を進めた「スーパーシートプレミアム」で顧客単価の高いビジネス客と富裕層の獲得に成功した経緯がある。そこでJALは、ビジネス客・富裕層を取り戻すためにファーストクラスを新たに設置、12月1日からサービスを開始する。
これに対するANAのカウンターパンチが、今回のプレミアムクラスというわけだ。価格設定も絶妙なラインになりそうであり、JALの国内線ファーストクラスが「普通席運賃+8000円」であるのに対して、ANAのプレミアムクラスは「普通席運賃+6000円〜7000円程度」になる模様だ。現行のスーパーシートプレミアムが普通運賃+5000円なので、若干の値上げだが、JALの国内線ファーストクラスほどは高くない。さらにANAは、プレミアムクラスの設定路線が国内57路線と多いことも競争優位性になる。
300万円でプレミアムクラスに乗り放題――「プレミアムパス」の狙い
さらにANAは、プレミアムクラス設置にあわせて、1年間プレミアムクラス乗り放題の「プレミアムパス」を限定発売する。このパスは300万円で、1年間プレミアムクラスに搭乗回数無制限で乗れるというもの。さらにANAのエリート会員“プラチナ”クラスと同レベルの付帯サービスが提供される。限定販売商品である上、価格も高いので、一種のキャンペーンではあるが、国内出張の多い企業経営層や、旅行好きの富裕定年退職者向けのサービスとしては、面白い試みと言えるだろう。
企業の景気回復や所得格差の広がりを背景に、長距離移動市場は“収益率の高い顧客をいかに獲得するか”が重要になっている。特に国内では、利用頻度・顧客単価ともに高いビジネス客と、富裕な旅行客の需要をいかに取り込むかで、航空・鉄道各社がサービス競争を繰り広げている。JALとANAの“高級化競争”は引き続き拡大しそうな気配である。
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