“秋葉原”から“アキバ”、そして……――変化する街を作る方法:郷好文の“うふふ”マーケティング(3/3 ページ)
「秋葉原の信号を1つ廃止するならどこ?」。中小企業診断士の研修で、一風変わった問いを投げかけられた。変化する街“秋葉原”をより生き生きとした街とするためには、どういう方針で、どの信号を廃止すればいいのだろうか?
D・Eブロックの真ん中に“解”を見つけた!
人いきれの中央通りの歩道を、もみくちゃにされながら“元”家電タウンの中央部、総武線の高架下へ向かう。先ほどの交差点と万世橋交差点のちょうど真ん中。ひらめいた。この信号を取っぱらえば“秋葉原”と“アキバ”がつながる!
最も横断者が多い場所なのに、2つの交差点にはさまれているため、信号のタイミングによっては自動車の通行量が意外に少なくなる。信号が変わると横断歩道をハミだす人の群れ。旧秋葉原の象徴、家電エリアとマイコンエリアへの人の流れはまだまだすごい。
秋葉原の再開発の象徴、ダイビルとUDXを“クロスフィールド”と名付けたのは的を射ている。秋葉原が「アキバッパラ(原っぱだったゆえにそう呼ばれた)」から「秋葉原」になり、やがて「アキバ」になった。その名前の変遷はクロスカルチャーの歴史そのものである。
アキバは商業と欲望のクロスポイントだ。ダイビルとUDXの広場がクロスフィールドの“頭脳”なら、総武線高架下は“下腹部”だ。欲望やオタク丸出しだが生き生きしている。
散策を終え、研修室に戻って発表資料をまとめた。まず、中央通りは幅が広いので、中央帯に“緩衝地帯”(途中で立ち止まれる島)を置く。そして、自由に横断できることをドライバーに知らせるために、横断歩道の白黒にLEDを埋め込むというアイデアも付け加えた。ブロック間の回遊性(人の流れや動線)を高める趣旨の発表。講師の思惑通りだったようで、褒められました。
街は“flies and comes”で生き生きとする
米国人から“White flies”というフレーズを聞いたことがある。「白人が飛ぶ」とは、有色人種が街に増えたのを嫌って、白人が郊外などに移り住むことだ。
それをもじるとBブロックは「オーディオ・フライズ」で「ゲームセンター・カムズ(やってきた)」、Aブロックは「PC・フライズ」で「メイド・カムズ」、Dブロックは「家電・フライズ」で「ジャンクフード・カムズ」、Fブロックは再開発で「ヨドバシ・カムズ」。
筆者は電気少年でもパーツ少年でもなかったけれど、30年前の秋葉原できらめいていた部品や雑踏が好きだった。闇市的な怪しさが面白かった。今日までの変化で辛酸をなめ、閉めた店も消えた人も多いが、この街への新しい流入パワーは途切れない。
街作りをするためには“囲い込み”をしてははだめ。アーケードを造るとシャッター商店街と化してしまう、閉鎖空間になるからだ。自分たちだけにお客を呼び込もうなんてヨコシマな考えである。街はオープン系にするべきだ。その方策はただ“信号を取っぱらう”だけ。何かを新しく造る投資は要らない。信号を取り“歩く体験”を真ん中に据えて、街に息を吹きこもう。
街が変化すると、新たな登場人物も現れる。しかし昔の秋葉原が好きだった筆者は、道端に立つメイドも、練り歩くゴスロリも好きになれない。街歩きMAPの南明奈さんの笑顔とも重なり、かわゆいと振り向くけれど心理は複雑。アキバの次はやはり、アッキーナならぬ“アッキーバ”になるのだろうか?
関連記事
- 座って触って気持ちいい理由――「椅子塾展300Chairs」
コスト優先の大量生産で生み出された椅子には、消費者にとって大切な“心地良さ”が欠けていることがある。そんな風潮に反発して、人間の五体が本当に心地良いと思えるような椅子を作ろうとする職人たちがいるのだ。 - 見たことのない日常風景を切り取る――スナップに必要な“2つの目”
旅先で非日常を撮る。また、食べたモノや面白かったモノをブログに載せるために撮る。これは多くの人がしていることだ。しかし、スナップのもう1つのジャンル「ストリートスナップ」とは? プロの手ほどきを受け、その本質に少し近づけたような気がした。 - フジヤマより“オタクツアー”――訪日観光客向けに、新しい観光素材開発
「富士山&京都」はもう古い――アキバのアニメショップめぐりや、リピーターに人気の北海道や沖縄など、訪日観光客に向けた新しい観光素材を開発、データベース化する取り組みが始まっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.