京都伝統のコンテンツを生かせ――着物柄の名刺をプロデュース:郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)
京都の伝統的な技術を生かし、裏面に伝統の着物の柄を施した和風の名刺をプロデュースしている株式会社のぞみ。京都の魅力をさまざまな媒体で伝えてきた藤田功博氏の思いを聞いた。
アナログの手触りを伝える
「最初は豆腐や漬け物まで手掛けるアイデアがあったんです」
のぞみはこれまで京都全域で味の店や土産店を取材してきた。その過程で“食”という京都コンテンツを自らも企画・販売したいと考えていた。だが結局“名刺”というツールに絞ったのは、藤田さんたちが京都の情報と格闘してきた歴史からだった。
物語は2002年、京都大学や同志社大学の学生たちが、マンションの一室で学生ライターたちが集まる事務所「のぞみ」を立ち上げたことから始まる。時は就職氷河期、「いっそ自分たちで起業しよう」、そんなノリで始めた編集プロダクション起業だった。安価でマジメな編集を心がけたため、京阪神エルマガジンや大手雑誌の京都特集を次々に請け負った。また、大手通販会社と一緒に、京都グッズのプロモーションも行った。
当時のことを「編集者の真似事」と藤田さんは振り返るが、仕事をする上で2人のライターに薫陶を受けた。「スペックを書くな!」と言ったのは京阪神エルマガジンの江弘毅『Meets Regional』編集長。例えば、ラーメン屋をどう伝えるか。めんの太さ、スープの濃さ、修行した店、仕入れ先、行列の長さ……。しかし、江さんは言った、「そんなのはみんなデジタル情報。もっとアナログの手触り感じゃないとダメだ。どんな気持ちを込めて作っているのか、場の雰囲気はどうか、食べる客の額にどんな汗が流れているか、お客さまは心からの笑顔なのか。それを伝えなさい」と。
「伝えると伝わるは違う」、これは博報堂のあるコピーライターの言葉。「伝わらなければ結局自己満足。“伝わる”ためには、言葉を微調整しつつ“HOW”を書きなさい、“WHAT”を書いちゃダメです」と言われた。どちらも「人の心を伝えなさい」というメッセージ。それが真の情報発信だと感じた。
ウチ側の視点で京都を観てきた
それからは「京都のアナログの手触りを伝えよう」と格闘してきた。それはWebというデジタル情報媒体との格闘でもあった。そしてJTB MOOKの『京都クチコミランキング』(2006年)が1つの解になったいう。
『京都クチコミランキング』ではネット掲示板のナマのクチコミ情報を取り入れた。取材だけでなく、消費者のホンネを付加して店を紹介することで、「この店がすごい」という自画自賛のガイド本から脱出した。「ナマの京都が描けた」実感があった。さらに気付きもあった。「これまで、内側の視点ばかりで京都を見てきたのではないだろうか?」
もっと大きな視点から京都のコンテンツを見よう。すると、京都をスルーするお金の流れも見えてきた。京都の伝統の技やコンテンツをどう生かすべきかが見えてきた。こうして伝統的な工芸と大量生産のジレンマの解決策である『和札/WAFUDA』が生み出されることとなった。京都の中の人と人、店と店、技と技を結びつけて、「伝統×コンテンツ・プロデュース」で京都の和を広める、それが藤田さんの“のぞみ”だ。
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