さようなら、Mr.スポック!――新しい経済学「行動ファイナンス」って何?:現役東大生・森田徹の今週も“かしこいフリ”(4/4 ページ)
「行動ファイナンス」の意味を知っている人はどのくらいいるのだろうか。筆者の森田氏も詳しくは知らなかったが、『行動ファイナンスの実践』(ダイヤモンド社)を読み、「これは儲かる!」と思ったという。その行動ファイナンスとは一体……?
一般に、人は利益と比べて損失を2倍〜2.5倍強く感じる傾向にあるという。
以前、日経平均の株式プレミアムを5〜6%と仮定して妥当な日経平均の値を非常に簡易的に計算したことがあったが(関連記事)、リスクをボラティリティー(価格変動率)の大きさとしてみる金融工学的にはこれは過大な数字である(経済学者のモデルでは株式プレミアムは1〜2%とされるのが普通らしい)。これもプロスペクト理論を使えば説明できるとされ、シュロモ・ベナルツィとリチャード・セイラーの論によれば、投資家が損失を利益の2.25倍強く感じる(2.25倍の損失回避度)と仮定すれば、7%の株式プレミアムが存在すれば債券と株式に“見込まれる”価値(あくまで感覚的なもの)が同等になるそうだ。
参考書籍で紹介されているのはもっとマニアックで実用的な知識が多いのでこれ以上は触れないが、このようにさまざまな既存の経済学の機能不全を行動ファイナンスは部分的だが非常にうまく説明するのだ。
最も不完全でかつ最も知的な学問
ここまででいくつかの行動ファイナンスを“かじって”はみたが、上記の「市場価格や収益についてのアノマリー」での関連項目にピンときた方は、恐らく賢明な投資家だ。興味があれば、理論のみで実証がない類書は読まずに、繰り返しになるが『行動ファイナンスの実践』を読むことをオススメする。
さて、経済学をいろいろとコケにしてきた感がある本記事だが、最後に1つだけ断っておこう。不完全でありながらもなお、経済学は社会にとって必要不可欠な学問であり、専門家以外は知らなくて良いといった類のものではない。金融危機が国際問題の筆頭に挙げられる昨今、逆説的だがますます経済学の必要性は増していると言っていいだろう。だから、学生が見てもその間違えが分かるようなちんぷんかんぷんな経済対策論議をテレビで繰り広げるエセ学者や芸人崩れはさっさと口をつぐむべきであるし、彼らのようなしたり顔のエセインテリがはびこらないように公教育で経済や金融について少しは真面目に学ばせた方がいい。
学問はしょせん、人間が作ったものだから必ず不完全であり、その中でも特に文系の学問は定量的な議論をすることが難しいことが多いから、外部からの批判にさらされても自己擁護に自己擁護を重ね、硬直的になることも多い。
その点、自らの欠点を自覚し、きちんと自己批判を続けている経済学のなんたる素晴らしいことか、間違いなく経済学は“最も不完全でかつ最も知的な学問”である。
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